SITE  scene.20



SITE トップへ


「リュディガー提督、バラン星との交信が不通になりました」

 旗艦リュッツォウの自室で執務中だったリュディガーに、ゲルトが報告に来た。

「どういうことだ?」

「はっ、定時補給が遅れていましたので確認しようとしたのですが、回線が接続できません。  こちらの機器はチェック済みで正常動作していますので、バラン側の問題かと推測しますが…」

 バランにはドメル将軍が赴任したと聞いた。  バランは本星と地球の中間点…、地球人からみればイスカンダルへの灯台のようなもの。  そこにドメル将軍が赴任したのは、思いのほか地球の新型戦艦が強力だと言うことか。  だがしかし、勇将ドメルをただ一隻の戦艦のために配置したのだ。  まさかとは思うが… 

「ゲルト、本星のヒス副総統に連絡を取れ。  補給線が不安定では戦線の維持ができん」

「はっ!」

 太陽系へ進駐した際に、補給線は現在直轄している占領地のトパーズ星系からと、 本星、つまりバラン星経由の2本を設定した。  トパーズは占領してまもなく情勢も不安定だが、 バランはガミラスの拠点として安定している上に補給拠点なので、物資の備蓄も豊富だった。  万が一、バランからの補給が途絶えるとなると、地球制圧作戦も危うくなってしまう。  状況確認が必要であった。
 リュッツォウの艦橋へ入り、本星との回線接続を待つ。  ほどなくメインスクリーンにヒスが出る。

「地球攻略軍総司令リュディガーであります。  ヒス副総統にご確認させて頂きたい事がございます」

「なにか?」

 出てきたヒスは明らかに不機嫌だった。  視線は一定せず体を小刻みに揺らしながら、右頬は引きつり気味になっている。  リュディガーはこれからの通信が穏やかには行われないであろう事を覚悟した。

「バランからの定時補給が途切れ、通信回線も接続できない状態になっております。  バランについて何か情報はありませんでしょうか」

「ふん、バランか… そんな基地はもうない。  ドメルが焼き払ってしまったよ」

 ドメルがバラン星基地を焼き払った?  ヒスの言っている意味がリュディガーには判らなかった。  言葉は耳に入ったが、文字通りに理解する事を脳が拒絶しているかのようだった。

「副総統、自分にはお話が理解できません。  何が起こっているのでしょうか」

「ドメルは地球の艦一隻如きを沈める為に、バラン星基地の上に人工太陽を落としたのだよ。  ヤマトを押し潰すためにな。  しかもヤマトを沈める事に失敗した! まったく話にならん。  総統もたいそうご立腹だよ」

 何と言う大胆な作戦だ… さすがのリュディガーも驚いた。  しかし、それだけの作戦でないと沈められない艦とはどんな敵なのか。  ドメルの指揮官としての力量が判っているリュディガーにとって、 作戦の異常性よりドメルにそこまでさせる敵の恐ろしさを思わずにはいられなかった。  そして絶対に失敗が許されないこの作戦をどれだけ綿密に計画したか。  それが失敗に終わるとは、よほど敵の指揮官が強敵なのか、もしくは内部に乱れがあったのか…

「状況は理解できました。  我が戦線はトパーズからも補給線を引いておりますが、 バランからの補給がありませんと作戦の維持が困難になります。  本星よりのご支援を頂きたいのですが」

「何を言っとるか! 貴様の作戦が維持できないのは貴様が艦隊を失ったからであろうが。  ドメルと言い、貴様と言い、ガミラスの双璧などと言われて天狗になっておったんじゃないのか!  己の失敗のツケを他人の失敗に便乗させようとするのはやめにせい」

 ヒスは激しく感情的になっていた。  艦隊を失った事が作戦に大きく影響している事は事実だが、 先の艦隊喪失は報告済みで総統にもご容赦頂いたこと。  現状で戦線を維持する為には、スケジュールの遅延は免れない。  それを回避する為の相談であるのに。

「総統には地球制圧のご報告しかできん…」

 ヒスはそう言い残すと、一方的に回線を切断した。  おそらくヒスは、バランに関連する報告を総統に出来ないのだろう。  副総統でありながら総統の評価は低く、その対応は常に総統ご自身のご機嫌によって左右される。  総統がご立腹であるならば、ヒスは命を落とすかもしれない。  彼の立場を考えれば理解出来ない訳ではないが、自身の裁量で出来ることがあるのではないかとも思う。  しかし、彼に期待しても仕方がない。  それが彼の器であり、それ故の総統の評価なのだ。  どの様にして副総統まで上り詰めたかは判らぬが…
 本星からの補給が当てにならないとなれば、 自分の裁量で動かせるのは占領軍としてトパーズ星に駐留している自分の本隊とトパーズの植民地政府軍になるが、 占領軍を動かしては治安維持がままならなくなる。  トパーズ軍を冥王星に呼び寄せ部隊を再編し、他の物資は現地調達するしかない。

「リュディガー提督、占領軍司令プライセルに命じてトパーズ軍を出させましょう。  彼らは勇猛で統率の取れた優れた軍です。  トパーズ星が占領されている今、我々に反抗する事はないでしょう」

「さすがだな、ゲルト。 私も今、それを考えていたところだよ。 すぐに手配してくれ。  補給線も可能な限り拡充してくれ」

「はっ!」


    *    *    *    *    *


 リュッツォウの艦橋から見渡す前線では、アンスガー率いる前衛艦隊が拮抗した戦いを繰り広げている。  自分の片腕として信頼を置くアンスガーに対して頑強に戦線を支える敵艦隊に、感嘆して見入っていた。  アンスガーが優勢に展開しているかと思えば、力を逸らすような艦隊運動で損害を抑えつつ反撃に転じる。  アンスガーが引けば深追いせず防衛隊形を再構築し、付け入る隙を見せない。  アンスガーが優位に戦闘を進めているし敵艦隊も少ないながらにも艦を損耗しているが、 防衛能力の低下を感じさせない。  統率の取れた艦隊運動からは、指揮官に対する信頼が強固である事が見て取れる。

「見事だなぁ。  敵である事がこんなにも惜しいと思うことはそうはない」

 リュディガーもついに堪えきれず感嘆の声を上げる。  優位に戦いを進めながらも決定打が打てないアンスガーの歯噛みする様子が目に浮かぶようだった。

「アンスガー司令の手腕もかなりのものですよ。  あの隊形を突いて落伍した艦は決して逃さない」

 ゲルトがアンスガーを擁護するように答える。  それでも相手の実力が高さを認識した上で、アンスガーがさらに上である事を示唆する物言いである。

「うむ、アンスガーはこれでまた一つ成長できるな。  しかし、この戦況をいつまでも愉しんでいる訳にもゆかぬ」

 リュディガーはさっと右手を上げると、その手を左に払う。

「プライセルは強襲艦隊を引き連れ、前線を回りこんでトパーズ本星を制圧せよ」

 リュディガー艦隊本隊から強襲艦隊が分離して、トパーズの衛星トパゾスの影に回りこんで本星へ向かう。  前線を大きく迂回するコースになるので、前線の両艦隊には影響を及ぼさない・・・、はずだった。

「ガミラスの分艦隊が本星に向かうぞ。  第二戦隊群はトパゾスから時計回りに敵分艦隊を我が艦隊正面へ誘導するのだ!」

 トパーズ最終防衛艦隊司令長官ザーヴォドナー提督は、いち早くプライセル艦隊の動きに気がついた。  その目的も判っていた。  だがすでにトパーズにこの艦隊以外に防衛力はなく、艦隊を割かねば本星を守りきれなかった。
 トパーズ第二戦隊群が本隊から移動を開始し始めた時、その抜けた穴を埋める為の隊形の再構築に艦隊は乱れた。  その好機を見逃すアンスガーではなかった。

「敵艦隊の分裂点へ全艦突撃! 両舷斉射で突き抜けろ!」

 アンスガー艦隊の突撃に呼応して、プライセル艦隊は小ワープでトパーズ本星へ接近、 急降下で地上制圧に掛かる。  分裂点に突入されたトパーズ艦隊は、同士討ちのリスクを回避する為に十分な応射が出来ず、 されるがままに被弾してゆく。  ザーヴォドナー提督は本隊、第二戦隊群を前進させ、 アンスガー艦隊の後ろで艦隊を再構築させようとしたが、 アンスガーは右回りにトパーズ艦隊を包むように砲火を浴びせ続ける。  トパーズ艦は地球艦に比べて装甲は硬いらしく、いきなり艦を貫かれる事はなかったが、 構造物は破壊され、見る見る戦闘力を失っていった。
 ザーヴォドナー提督座乗の旗艦ブジェツラフの艦内に響き渡る警報音。  小爆発の音や振動が伝わる艦橋内には、あちらこちらから煙が立ち上る。

「提督、お怪我が…」

 気がつけば額から出血していた… 艦橋内ですら、怪我をしていない者はいなかった。  アンスガー艦隊に自艦隊の後方を取られ、本星には制圧部隊の侵入を許した。  そして前面にはガミラスの本隊が迫ってきた。

「もはやこれまでか・・・」

「提督! 前方ガミラス艦より入電、メインパネルに出します」

 視線をメインパネルに移すと、凛としたガミラス人が映し出された。  およそ戦場にいるとは思えぬほど疲弊感もなく、それどころか身なりの乱れすら見られない。  かたや自軍は艦も人も傷つき疲弊し切っていた。  これでは勝てぬ。

「お初にお目にかかる。  私はガミラス帝国トパーズ星系制圧軍総司令官リュディガーだ」

「トパーズ最終防衛艦隊司令長官ザーヴォドナーだ。  お見苦しい姿で申し訳ない」

 互いの艦は見ていたが、指揮官自身に会うのは初めてだった。  すでにその立場は明確になっていたが。

「ザーヴォドナー提督、あなたの指揮は見事だった。  我が前衛艦隊を防ぎきったその手腕、他の星では見たことがない」

 真摯な表情で語るリュディガーの言葉に偽りや蔑みの感情がない事はわかる。  しかし、それをもろ手を挙げて喜べる立場ではない事を痛感しているザーヴォドナーはため息混じりに答える。

「本星を守りきれねば意味はない。  これ以上恥を晒す気にはなれん、とどめを刺してはくれまいか」

「ザーヴォドナー提督、あなたの今の気持ちはわかるつもりだ。  だが、トパーズは滅びる訳ではない。  ガミラスの従属国となるが国として生き続ける。  これからのトパーズとガミラスのために、考えを曲げて我が指揮下に入ってもらえないだろうか」

 メインパネルを見ていたザーヴォドナーは目を見開いた。  そこには信じられない光景が映ったからだった。  それは勝者であるリュディガーが敗軍の将である自分に頭を下げているのである。  支配下に置いた敵軍の将に命令ではなく、礼を尽くして頼むというのか。
 その時、ブジェツラフに本星から緊急回線が割り込んできた。  メインパネルは左右に二分割され、右にリュディガー、 左にトパーズ大統領ヴァーツラフ・クラウスが映し出された。

「ザーヴォドナー提督、クラウスだ。 私はガミラス帝国への降伏を決断した。  見てくれたまえ」

 そう言うとクラウス大統領が映っていた画面にはトパーズ星の都市が映し出された。  上空にガミラス艦が押し寄せているものの、街に損害があるようには見えなかった。  示威行動は取られているが、都市部への攻撃はされなかったのだ。

「ふっ」

 ザーヴォドナーから若干の笑みがこぼれる。 そして・・・

「リュディガー提督、負けた相手があなたでよかった。  恐らく、戦う前から人としての器でも負けていたのでしょう。  あなたの指揮下に入ります」


    *    *    *    *    *


 冥王星に近づく艦影があった。  黄土色を基調とした艦が二列縦隊で進出してきた。  その先頭は大型戦艦ブジェツラフ、ザーヴォドナー提督座乗のトパーズ艦隊旗艦だった。  戦闘艦とともに輸送艦も多数引きつれ、補給線の確保も同時に行っていた。  冥王星基地に到着すると物資の搬出と基地司令部の建設が行われた。  居住区の一室でリュディガーとザーヴォドナーは再会した。

「リュディガー提督、お久しぶりです」

「ザーヴォドナー提督、よく来てくれた。  あなたの手腕をぜひ発揮して頂きたい」

 トパーズからは旗艦ブジェツラフを含む、戦艦3、巡洋艦8、駆逐艦20の戦闘部隊、 1隊につき護衛艦3、輸送艦8の輸送隊3隊の計64隻が地球制圧作戦に参加した。

「状況は大よそ解りました。  今後はどの様に展開しましょう?」

「敵司令官もかなり優秀な指揮官なので、これ以上に戦力を増強させたくない。  生命線であるタイタンの補給基地を潰す」

 リュディガーの下、直ちにタイタン攻略作戦が立案された。  タイタン攻略部隊にはアンスガーがガミラス艦隊と地上部隊を率いてこれにあたり、 警戒、迎撃を担う遊撃部隊としてザーヴォドナーのトパーズ艦隊がこの任に着く。  攻めのアンスガー、守りのザーヴォドナーで適材適所ではあるが、リュディガーには一抹の不安があった。  それは現有戦力に空母が1隻しかいないこと。  地球艦隊に有力な航空戦力がある以上遊撃部隊に空母を配置したいが、 突破された場合に地上部隊は裸同然になってしまう。  それに優秀な指揮官ではあるが属国軍の提督であるザーヴォドナー配下に、 帝国の艦を配置する訳にも行かなかった。  結局のところ、空母はアンスガー配下に置かれ、地上部隊への上空警戒、支援戦闘が妥当な線になる。  トパーズ軍の空母を全滅させた事は戦略上重要であったが、 地球攻略戦の枷になるとはさすがのリュディガーにも想像できなかった。
 しかし、考えてもどうにもならない。  ザーヴォドナーの防衛手腕に期待し、足止めしている間にアンスガーが挟撃すればよい。
この作戦が成功すればアンスガーも汚名返上できるだろう。  そのためには自分は冥王星に待機していなければならない。  自分が出てはアンスガーの戦功にならないからだ。  冥王星ではトパーズの輸送隊が搬入した資材で前線基地の再建が始まっていた。  その上空をタイタン攻略部隊が出撃して行くのを見送るリュディガーだった。



scene21

感想はこちらへ

初出:2013/02/28




【このページのトップへ】