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 吉村機を追う3隻のガミラス艦。 激しく攻撃を行うが、 吉村機はひらりひらりとその攻撃をかわす。  イスカンダルのオーバーテクノロジーを取り入れたブラックタイガーと比較するのは論外だが、 従来の戦闘機と比べても、百式探索艇は機体も大きく機動性にも欠ける。  その百式探でガミラス艦の猛攻を凌いでいるのは、 ひとえに卓越した吉村の操縦技術の賜物だった。
 初めこそ泳がせて母艦に帰投させ、母艦もろとも撃破するつもりだったガミラス艦隊も、 撃墜はおろか、ただの1発さえも被弾させることが出来ない現状に、苛立ちを募らせていた。

「いつまで遊んでいるっ! もうよい、さっさと落としてしまえ。  どうせこの先に奴の母艦がいるに決まっているのだ。 レーダーは前方に志向性を高めて索敵せよ!!」

 吉村は地球艦隊からガミラス艦隊を引き離すつもりで粘りに粘った。  その行為が、ガミラス艦隊の背後から迫る地球艦隊に大きな幸運をもたらしたのだった。  過大なストレスを溜め込んだがために、 注意力を一点に集中させる危険性に誰しも気づかなかった。  そこには、彼ら自身の身の上にも問題があったであろう。 本隊である冥王星艦隊が全滅し、 このまま本星、ガミラス星に戻っても、デスラーには許されないであろう事は、 ガミラス軍人であれば誰にでもわかる事だ。 とは言え、太陽系に残っていても、 冥王星基地を失い本星からの補給線も途絶えた今、生き残る術はないのだ。  それゆえに、わずかでも戦功をあげ、本星への帰投許可を得る必要があった。  そんな焦りと苛立ちが、索敵範囲を絞ると言う過ちを犯させた。  その場にいた誰にもこの判断を咎めることはできなかった。

その時だった!

「敵機に命中!」

 吉村機の左翼増槽タンクをかすめるように命中、増槽タンクより炎を吹き上げる。  その炎の噴出力で右ロールをはじめる吉村機だが、 瞬時に左右の増槽タンクを切り離し姿勢を制御する。  本来なら交戦状態になれば増槽タンクを切り離すのがセオリーだが、 少しでもガミラス艦隊と地球艦隊とを引き離したい吉村はそのセオリーをあえて破り、 より多くの燃料で遠くへ飛び続けたかった。  吉村にとっては生涯最後のフライトであるつもりでもあったから、 長く飛びたい、そして散る時は派手に幕を引きたい。 そんな思いもあったかもしれない。  それが更なる幸運を地球艦隊にもたらしていた。
 派手に炎をあげ、激しくロールする様をみたガミラス兵の気分は一気に高揚した。  彼らにとって、吉村機が吹き上げる炎は母星ガミラスへのかがり火であるはずだった・・・

「最大戦速にてガミラス艦に突入、下げ舵30左横転90で通り抜ける。  先行艦が高度を下げ、射線上にガミラス艦を捕らえたら空間魚雷を射出、敵艦下部へ潜りこめ。  横転後は奥のガミラス艦に対して主砲の一斉射撃。 遅れるな」

 三笠を先頭に単縦陣でガミラス艦に急接近する地球艦隊。  その姿は吉村機炎上に沸くガミラス兵の、誰の目にも留まらなかった。

「全艦突入! 三笠、下げ舵30!!」

 2番艦・雷の艦橋から三笠が下がって行く。 その先に浮かび上がるのは、宿敵ガミラス艦。  雷の射線上に姿を晒したガミラス艦からは、一発の砲撃はおろか、 地球艦隊に気づいた様子すら伺えない。 

「空間魚雷発射!」

 雷から4発の空間魚雷が一直線にガミラス艦に向かう。 回避行動をとる様子もない。 

「よしっ、とったぞ! 下げ舵30急速潜行! 後続艦に射線をあけてやれ!」

 雷艦長・永倉の嬉々とした激が飛ぶ。 艦の修復、乗組員の負傷で一大決戦・ 冥王星会戦に参戦できなかった悔しさを晴らすように、その声は弾んでいた。  3番艦・潮からも空間魚雷が、また4番艦・榎からも空間魚雷が発射される。  12本の魚雷は河を渡るヌーを襲うピラニアのごとく、 まっしぐらにガミラス艦に襲い掛かる。
 その時、吉村機への命中弾に沸くガミラス艦の中で、 視界の隅に光る移動物体を捕らえた者がいた。  その光る物体はガミラス艦の下部へ潜り込む途中の三笠の超伝導反射板だった。  正体を見定めようと外を見やった時、彼の視線に黒い物体が飛び込んでくるのだった。

「!! ぎょっ、ぎょらい・・・、魚雷だーっ!」

 声が早いか、命中が早いか。 轟音と共に激しい衝撃がガミラス艦を襲う。  雷の放った魚雷は4本ともガミラス艦を捕らえた。 噴き出す炎、吹き荒れる爆風。  そして艦外へ吸い出されるガミラス兵。 阿鼻叫喚の様相を見せる間もなく、 艦体は真っ二つに折れ、大爆発を起こした。 その爆発の中に潮の魚雷が飛び込む。  4発の魚雷は爆発に巻き込まれ共に爆発してゆく。 その様子を見た5番艦・葵の艦長大久保は、 爆発で視界内からガミラス艦を見失い、また誘爆する魚雷の無駄を考え、 魚雷を発射せずに次の行動を起こした。 

「右舷後方、5時の方向に敵艦発見! 3番艦爆沈!!」

 母星を照らすかがり火から、地獄へいざなう業火を見せ付けられて、 ガミラス艦はパニックを起こしていた。  残った2隻が左右ばらばらに転舵し、統率のない行動に移った。  その2番艦に、3番艦の爆発の中を突破した榎の魚雷1本が襲い掛かる。  右転舵中だったため、右前方から機関部に命中した魚雷は、 ガミラス艦から機関部を奪い去った。  爆炎をあげつつ漂流を始めるガミラス2番艦の下部から、三笠の艦砲射撃が始まる。 

「艦を敵艦に寄せろ。 肉薄せねば我が光線砲は効かんぞ」

 ガミラス2番艦の下部に右舷を晒した状態の三笠が一斉射撃を開始。  彼我距離、わずか10メートル。  三笠の攻撃はガミラス艦の装甲板に穴を空けるが、貫通することが出来ない。  表面上は爆発が起こるが、致命弾を与えられない。

<ここまで接近しても有効弾はないのか・・・、 沖田さんと言えども、これでは勝てん・・・>

 土方は内心歯噛みしていた。 三笠の武装は主砲の光線砲のみだ。  このままでは三笠は戦闘力がない。 中途半端な輸送艦としてしか使えないのだ。  駆逐艦の主要武装である空間魚雷も肉薄雷撃あってこそ、 その攻撃力を発揮する。 遠距離からの射撃では回避されてしまうのだ。  どうしても欲しい新型戦闘機・ブラックタイガー、そして、 ヤマト並みとまでは行かないものの、ヤマトに準ずる、戦力として使える主砲が欲しかった。  散在する残敵掃討なら戦えるかもしれない。  しかし、今後現れるであろう新たなる敵に対して、 土方艦隊が戦力でないことを痛感するのであった。
 三笠がガミラス2番艦を通過すると、後続の雷が砲撃を加え始めた。  機関を失い身動きできない2番艦に対し、雷の砲撃は三笠の砲撃痕を集中的に狙った。  しかし、三笠より小さい12.7センチ光線砲を主砲とする雷では、 満身創痍の敵艦の装甲に傷をつける事すらできなかった。

「三笠の破った装甲の裂け目を狙え! 内部から誘爆させるんだ!」

 高速移動中に僅かな裂け目を狙い打つのは容易ではなかった。  それは地球艦隊にストレスを与えたが、狙われるガミラス艦にとっては、 より大きなストレスとなっていた。
 反撃も出来ず、回避することも出来ずに、なすがままの状態で砲撃を浴び、 爆音と振動、空気の流出に怯え、右往左往するしかなかった。  いっそ、一思いに爆沈させられた方が楽であったかも知れない。  真綿で首を絞められるように、じわりじわりと死の恐怖が迫り来るのだ。  そして、艦内は地獄絵図へと変わっていく。

「隔壁を閉めろ、この区画の気密を確保するんだ」

「動力が供給されていません、動きません!」

「手動で閉めろ」

 可能な限り艦を維持するために、各所で作業を続けるガミラス兵たち。  機関を失ったために艦内各所の動力の供給も停止、照明すら消えていた。  爆発の炎と宇宙服のライトのみが頼りになっていた。 宇宙服の酸素には限度がある。  隔壁の閉鎖は、生き残るための重要な課題なのだ。 しかしそれも、 動力を失い空気を正常化する術を失った宇宙船にとっては、 焼け石に水なのだが・・・

「あっ」

 あと50センチ、まもなく隔壁が閉められると言う所で、隔壁の向こう側に被弾。  僅かな亀裂が生じた。 しかし、その亀裂は凄まじい気流を発生させ、 亀裂を拡大させ始めた。 その気流は、当然人間にも影響した。  作業中のガミラス兵が、隔壁の直径50センチの隙間から吸い出され、脇の下でとまったのだ。  潮の服部艦長なら彼を引き戻せたかも知れない。 3人がかりで引っ張ったが、 彼の体はぴくりとも動かなかった。

「隔壁を閉めろ・・・」

「えっ、しかし」

「閉めろ! これ以上、空気を流出させることはできん。 閉めろ!」

 風に逆らうように静かに立ち上がった兵が、隔壁の手動開閉バルブに手を掛ける。  隔壁に挟まった彼に目を合わせることも出来ず、一瞬の躊躇、 そして、意を決したように、その手に力を掛ける。

「ぶぶっ、分隊長! 助けて下さい、分隊長!! お願いしますーーーっ」

「あきらめてくれ」

 彼の体から肉と骨がひしゃげる音が聞こえてくる。 苦痛に顔をゆがめ、 声ともならぬうめき声を上げ始める。 バルブを閉める兵たちは、顔を上げず目を力いっぱい閉じ、 一心不乱に手を動かす。 見る間に隔壁の穴が狭まり、人間の限界を超えた狭さになる。

「ぶ、ぶんたいちょぉぉぉぉぉぉぉぉっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー」

 ゴキッ! ひと際大きな音がした後、彼は絶命した。 おそらく背骨が折れたのだろう。  それほどまでに穴は狭まっていた。 耳障りな音が続き、 最後にはブチッと生身の胸像が宙に浮き、隔壁は閉まり切った。

「すまん、ゆるせ・・・」

 艦内では微かな希望を抱き、反撃に出ようとしている者たちもいた。  動力が失われたために重力制御装置も停止し、艦内は無重力状態だった。  ミサイル発射口から艦外へミサイルを押し出し、地球艦へ向けて押し出すのだ。

「命綱はつけたか? よし、押し出せ!」

 艦にワイヤーをくくり付け、自分にその一端を縛りつける。  ミサイルを両手で支え、艦の外壁を蹴ってミサイルを押し出す。  ばらばらと機雷を巻くように、地球艦の前にミサイルが漂ってくる。  押し出した兵は、ワイヤーに引っ張られて艦へ戻る。  当たらずとも地球艦を追い払うことが出来れば・・・、 そんなささやかな望みだったかも知れない。  ミサイルが撒かれ始めたときにガミラス2番艦に砲撃を加えていたのは、 地球艦隊5番艦・葵だった。 15メートルと言う近距離での砲撃の中で、 ミサイルは射線上に漂い始め、葵の光線砲を受け爆発した。

「至近弾! 装甲板に損傷あり!」

「艦外に浮遊物、ミサイルと思われます!」

「砲撃中止、取り舵40度、全速離脱!」

 危険と見るや、即時離脱と判断できるのは、慎重派の大久保艦長ならではである。  あのまま砲撃を続けていれば次々とミサイルが爆発し、艦に重大な損傷をもたらしたであろう。  沈着冷静な判断がこの7年の戦争を生き残ってきたゆえんかも知れない。
 葵は離脱したが、ガミラス2番艦はそうは行かない。  機関を失い、さらに5隻の地球艦隊から集中砲火を浴び、外装への損傷が激しいのだ。  ミサイルの爆発で最初に被害を受けたのは、ミサイルを撒いていた兵たちだった。  ミサイルの運搬担当は爆風に吹き飛ばされ、宇宙のかなたへと消えていった。  ミサイルの放出担当は命綱のおかげで飛ばされはしなかったが、 爆風の直撃を受けて死ぬ者、艦に叩きつけられる者など。  破片に宇宙服を切り裂かれた者は、宇宙服から猛烈に空気が漏れ、なんと爆発した。  おそらく宇宙服内が真空になり、血圧に外皮が耐えられなかったのだろう。
 艦自体もミサイルの爆風に耐えられなかった。 内部で誘爆が始まり、 その噴出力で艦の向きが変わった。 そのまま木星の重力につかまり、飲み込まれていった。

 「全艦下げ舵90面舵60、隊列を維持し突撃、反航戦に備えよ!」

 単縦陣の直線上にガミラス1番艦を捕らえる。 ガミラス艦もようやく落ち着きを取り戻し、 反転を完了、同一直線上を真正面から向かってくる。 そして、 地球艦隊の射程の遥か遠距離から砲撃を開始してきた。

「超伝導反射板、作動開始。 出力全開!」

 土方の秘密兵器・超伝導反射板がついに作動した。 地球でのテストでは、雷の主砲を見事反らした。  しかし、実戦初投入でガミラスの高出力砲を反らす事ができるか?  この結果に土方艦隊の、いや、地球人類の命運がかかっているのだ。

「着弾3秒前、2、1、着弾!」

 三笠の艦橋では皆が耐ショック姿勢をとっていた。 だが、土方はただひとり、 腕組みしたまま着弾の様子を見据えていた。 艦橋内が一瞬激しく光に見舞われる。  その後も艦橋内は交互に明暗が訪れるが、振動も衝撃も何もなかった。

「超伝導反射板の作動状況、損傷状況を確認せよ!」

「現在、超伝導反射板は正常に作動中、損傷は認められません」

 土方の冷静な指示に、操作員がコンソールを叩き確認する。  超伝導反射板は正常動作を示すと共に、何ら負荷がかかっている様子もなかった。  外を見れば、ガミラス艦から幾筋もの光の帯が三笠に伸びるが、 三笠の直前で反れ、後方へと拡散してゆく。 その様子を見て、 艦橋内からにわかに歓声があがる。

「全艦進路このまま、浮沈雷撃を開始せよ」

 浮沈雷撃とは、三笠の背後に単縦陣で並ぶ駆逐艦が、三笠より高度を下げて前方の敵へ雷撃を行い、 すぐに三笠と同じ高度に上がり、三笠の影に隠れる事を言う。  超伝導反射板は攻撃が三笠の中心線から離れれば離れるほど、その効果を失う。  実体弾に関しては、装甲板も兼ねる超伝導反射板に当たらない事には効果がない。  三笠の影から姿を見せた時が、駆逐艦にとって最も危険なのである。  その危険を極力回避する為の攻撃方法が、この浮沈雷撃なのだ。
 4艦がそれぞれ1回ずつ雷撃を終えた頃、直撃弾2発、至近弾1発を受けたガミラス艦は、 その戦闘力を失っていた。 右に回頭を始め、いまだ健在な機関で戦線離脱を図るつもりらしい。

「そのまますれ違って離脱した方が、生き延びれたと思うがな・・・ 取り舵90度、 平航戦にて一斉砲撃、止めを刺す」

 空間魚雷の被害で外装がめくれ上がったガミラス艦に、 地球艦隊の砲撃が効果を出した。 見る見る炎と煙に包まれてゆく。  ついには機関に火が入ったか、艦尾付近より大爆発、轟沈した。
 その様子を艦橋から見ていた土方が、ガミラス艦に向かい敬礼する。  空域に静けさが戻り、艦内に解放感と安堵感が広がる。  いつのまにか、空域上空に吉村の百式探索艇が戻ってきていた。

「百式探の収容を急げ。 収容後、土星へ向け航行を開始する。  各艦、被害状況を報告せよ」

 地球艦隊の損害は、葵の外装破損、負傷者2名のみだった。  その破損も軽微で、航行中の修復が可能なレベルであった。  三笠に帰還した吉村は、格納庫に集まった者たちに揉みくちゃにされた。  一度は死を覚悟した吉村も、いまやっと生の実感を得ていた。 

「各員に告ぐ。 本戦闘はガミラスの不意を衝いて勝利したものである。  戦闘突入前に発見されていれば、壊滅していたのは我々かも知れないことを肝に銘じ、 今後の行動により一層の注意を持ってあたって欲しい。 以上だ」

 土方の訓示が流れる中、艦隊は第一航行序列に隊列を変え、土星へ針路を向けた。  快勝の興奮冷めやらぬまま、一夜明ければ土星圏、タイタンは目の前だ。



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初出:2006/03/15




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