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「こちら1番機、オールグリーン」

「2番機、オールグリーン」

「・・・、4番機、オールグリーン」

 アステロイドベルトを、 木星方向へ上下左右4方向へ偵察に出た百式探索艇が帰投を開始した。  1、2、4番機が、時をほぼ同じくして帰投報告をしたのにたいして、 3番機からの報告がなかった。

「3番機、吉村、現状を報告せよ」

 三笠から3番機へ報告を求める。 しかし、 3番機からは応答がない。 通信管制下、出力も上げられず、 回数も限られた通信を行わねばならないことは、誰もが判っている。  敵制宙権下を行動中との認識が強い土方にとって、 音信不通は会敵を意味していた。
 艦内は重苦しい沈黙に支配されていた。 誰かが唾を飲み込む。  そんな音でさえ、艦橋内に響き渡りそうなほどだった。

ザザッ

「こちら3番機、吉村。 ガミラス艦を発見。 位置、 ガニメデ沖C−56−36、10宇宙キロ。 駆逐艦3。  現在、敵艦の追尾を受けている。 ガニメデ沖B−13−40へ向け、 回避行動中」

 沈黙を破ったのは、3番機、吉村からの入電だった。  その衝撃的な報告内容、ガミラス艦はまだ太陽系に存在していたと言う事実。  だが、さらに衝撃的だったのは、吉村のとった行動だった。  彼の報告にあったガニメデ沖B−13−40とは、 土方艦隊の現在位置とは真逆とも言える方向なのだ。  土方と吉村の考えは一致していた。  ガミラス艦を艦隊から引き離し、艦隊の安全を図る。  吉村は土方の意思を十分に理解して行動していた。

 吉村は岩手県南部地方の出身で、奥さんと3人の子供がいた。  家族と郷土思いの人で、面倒見もよく、周囲の者の信頼も厚い。  任務に忠実かつ、その遂行率も高い。 
 一時は新型機・ブラックタイガーとともにヤマト配属の話もあったが、 この輸送任務の切り札と考えた藤堂が地球に残したのだった。

「百式探の回収を急げ」

 吉村の報告からさざ波のように、しかし確実に艦橋内に広がる動揺。  その中で冷静さを保ち続ける土方の命令に、各員が我に返る。  百式探索艇が岩石をすり抜け、三笠に帰投する。  3機を収容したことが艦橋に報告される。

「全艦隊に通達、第一警戒態勢。 第一戦闘序列への変換を準備せよ」

 土方の命令に、三笠艦橋内は一気に緊張の度を増した。  しかし、それとは裏腹に、土方からは次の命令がでない。  異様な緊張感に耐えられなくなったように、操舵手が土方を振り返る。

「司令、アステロイド・ベルトを出て転舵しますか?」

「まだだ」

 それ以降、沈黙が再び艦橋を支配する。 その間にも、 吉村機と艦隊の距離は広がってゆく。 言い知れぬ焦燥感に囚われる者が増えてゆく。 

「司令! 雷から発光信号です。 発、永倉艦長。 宛、土方司令。  直ちに戦闘行動の要を認む」

 それでも土方は、目を閉じ、腕組みしたまま動かない。  息を潜め、土方の命令を待つ。 何をしているのでもないのに、 こめかみを汗が流れる。 どれほど沈黙が続いているだろう。  とてつもなく長い沈黙のように思える。  だが、たかが数秒のことのようにも思える。

「司令っ!」

 副長の悲鳴にも似た呼び掛けにも微動だにしない。  あまりの冷静さに、土方は任務を優先するあまり、 吉村を見捨てるのではないかとの思いが、クルーの頭をよぎる。  冷静沈着な土方だが、ともすれば冷徹とのイメージも強い。  信頼と疑心暗鬼に揺れ動き、クルーたちの精神状態が限界に近づいたそのときだった。

「上げ舵30、面舵60。 アステロイド・ベルトを脱し、 第一戦闘序列へ変換せよ」
 その眼をカッと見開き、土方が命令を下す。  高まりきった緊張感が堰を切ったように行動となって、 すべての乗組員を突き動かす。 艦隊は急速にアステロイド・ベルトから浮上し、 変針しつつ序列を変えてゆく。
 三笠を先頭に、雷、潮、榎、 葵に並び変わった艦隊はガニメデ方面へ針路を取った。 

「全艦最大戦速、隊列を乱すな」

 土方輸送艦隊が、最後の地球艦隊がガミラス艦に襲い掛かる…


   *    *    *    *    *


 赤く荒れ果て、乾燥しきった地球。 その地表に、ひとつの集団がいた。  大地にはお世辞にも褒められない、滑走路と管制塔ができていた。  管制塔とは名ばかりの鉄パイプ組みの塔に、わずかばかりの機器がならぶ。 

「いいか、このブラックタイガーは地球にたった2機しかない虎の子だ。  今までの百式探索艇とは出力も機動も桁違いだ。  間違っても落とすんじゃないぞ」

 地球ではブラックタイガーの慣熟訓練が行われようとしていた。  第一回輸送作戦では搭載が適わなかったが、 輸送作戦が成功し、増産された暁には、 輸送艦隊の強力な武器となるブラックタイガー。  だが、それも扱えるパイロットがいてこそである。  土方の達て願いで、慣熟訓練にまわされたのである。

「このブラックタイガーは単座機だ。 上がっちまえば己の腕だけが頼りになる。  離陸して高度を3000までとって、旋回して帰って来い。  まずは機体の特性に慣れることが先決だ」

 宇宙戦士訓練学校の艦載機科の10名が訓練に参加している。  土方の構想では、1艦あたり5機、総計25機だが、今地球にいる訓練生では、 条件を緩和しても10名しかブラックタイガーに適合できる人材はいなかった。
  他の訓練生は百式探索艇で飛行訓練を繰り返しているが、 それもエネルギー事情を考えると十分な訓練は行えない。  何を行うにしろ、輸送艦隊の増強を図るにしろ、 すべては輸送艦隊が無事に帰ってこないことには、何も始まらないのであった。

 慣熟訓練といえば、もうひとつの集団がある。  こちらは地下都市の宇宙ドック、輸送艦の中で行われている、 退役宇宙戦士による輸送艦運用訓練だ。 ただし、もともと宇宙戦士であった彼らは、 艦の操作、運用を思い出す、勘を取り戻すためといった感じだ。  その為、さほどエネルギーを使わずに模擬的に訓練をこなしている。  だが、人間から発せられるエネルギーは、現在の地球防衛軍において、 もっとも高いかもしれない。 意気軒昂そのものである。
 輸送艦は4日後に静止軌道へあがる予定になっている。  そこで艦外作業訓練を行うが、若い訓練生たちも一緒にあがる。  それを楽しみにしている退役戦士が多い。 

「へっへっへっ、しごいてやるぜ」



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初出:2005/07/31




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