TheShigeTimes 開花特別企画 2004 
無名だと不便でいけねぇ・・   

語り手 上野茂都

-- この度、当ホームページも「プロフィール」や「コラム」のコーナーを独立させ、
  さしずめ【春の衣替え】の気分です。引き続き「シゲタイ」を御贔屓に願いたく存じます。
  という事で、新年度を間近にして、御本人の近況など・・
  今年の目標は「整頓」だそうで すね。

上・美術と音楽に手を出しているせいもあるのでしょうが、一目瞭然というものがないと
  「身の証し」が億劫でしてね。そのためにはひとまず 「整理整頓」ですね。

-- 「プロフィール」を「略伝」として物語にして頂きました。

上・「何年何月何があった」という年表式だと、大まかな様子が見え難いのですよ。
  ましてや無名なんだから・・

-- その辺は後に伺うとして、確かに年表だけでも重みがあるのですが、伝わりずらいですね。

上・要するにもっと雄弁にならなければいかんと・・厭ですけどね。
  先日、三島由紀夫の対談集を読んでいて、本人が後書きを書いているのですが、
  「何て俺はおしゃべりな男なのか」と自己嫌悪してるのですよ。(笑)

-- 対談なのに・・。

上・討論は別だけれど、自分の事を語ると畢竟「自慢話」になってしまう事がありますね。
  私は幸いに?自慢出来るような経験が皆無ですが、其の分「自己韜晦」がひどくてね。
  聞く側は「自慢」か「愚痴」の二者択一しかないわけだ。

-- それが 面白ければ良いですけど。(笑)

上・ 年頭の個展で、配布物に「昨年拝読致し候」というタイトルで、読書禄を置いておいたのです。
  「あれは自慢話にも取れる」と言った人がいました。実際大した読書量では無いので、
  気にしませんでしたが、本当は書きたくなかった。自分の「ソース」を見せたくないんでね。

-- わたしも自分の読んでいる本の表紙は隠してしまう方です。

上・でしょう。図書館でアルバイトしていたから知っていますが、借りて返したら、
  誰が何の本を借りたかは、記録に残さないのですね。大変なプライバシーですから。
  で、何であれを書いたかといいますと、他に何を書いても「不安・不平・愚痴」しか出てこないのですよ。
  さすがに年始早々、まずいなと。(笑) 去年読んだ本でも羅列しておこうと・・

-- 個展を観に行く側は、作家さんに会えるとは限らないので、何か読む物があると良いですね。
  「略伝」は美術大学の講座で使ったそうですが、あの講座もある種の「整理」だと思います。

上・通過点とはいえ、振り返ると見えて来る事はありますね。

-- たとえばどういう事でしょうか。

上・ 私の活動歴を、特異に見る方もおられますが、作品に関して言うと、
  彫刻であれば「形を造り、置いて、見せる」、絵であれば「筆で描き、彩色する」、
  唄であれば「言葉があり、節がある」と、至って素朴な表現方法です。

-- 確かにそうですね。

上・ だから、本当は「絵師」とか「音曲師」という呼び名の方が好きなのですが、
  それだけでは糧を得られていないので、おこがましくて名乗る勇気が無い。
  そこを指して「だから君は半端なんだ」と苦言してくれる友人もいます。

-- 先日のラジオでも「○○家」とは名乗れない、と言っていましたね。

上・実際「借家住まい」ですから 。面倒だから「美術家」にしておきますが、
  おせっかいなのが横から「三味線もやってまして・・」とくる、相手は一気に不信を抱く 。(笑)

-- 素朴な人なのに 。(笑)

上・私のいる世界は「家元」も「真打ち」ありません。「段位」もない。「○○協会」もない。
  「契約」すらない。だから作家が「何々会会員」になりたがる気持も良くわかる。
  「何々賞」を欲しがるのも同じ。 保証のない世界こそ、権威をほしがる構図ですね。

-- なるほど。

上・だから「時々餌はもらえるけれど、絶対に飼ってはもらえないノラネコ」の気持です。(笑)

-- 「身の証し」にかわる物が、「作家歴」になるわけですね。

上・音楽はCDを渡せるから楽なんですが、美術は現物に接する事が出来ない方が多いのです。
  だから写真が重要で、撮影の為に個展をしているような人もいます。
  あまり良い傾向とは言えませんが、必要性はわかります。
  美術館で個展が組まれると、大概は本人のカタログを作ってもらえますね。
  これは美術家の一つの目標にはなると思います。
  ただそれだけで伝わりきれるものでもありませんでね、的を得た批評が載るとも限らない。
  私の場合、説明するなら、私小説にでもしてしまったほうが良いみたいです。

-- 確かに観る側も「生い立ち」とか「エピソード」からのほうが入りやすい。

上・だって評論家の解説文なんて、面白くないもの。(笑) それを権威付けにする人もいますがね。
 もちろん逸話主体では困りますが、いずれは解りやすいものにしなくては、と思っています。

-- その為の「整理」ですか。

上・本当は周りが動き出すまで待つのが王道でしょうが、何せ無名だから・・

-- そうでもないですよ。(笑)

上・ 自分にはまだ、造りたいものがあるので、それが流行に合わなければ仕方が無い。
 その点「今、受け入れられているものに、感性が合っている人」は幸せだと思います。

-- それならば、悩みませんものね。

上・ だから別に無名で終わってもかまわないんですが、無名だと不便でいけねぇ・・

-- なかなかしみるフレーズです。今回は有り難うございました。

                           (聞き手 TheShigeTimes 管理人)