TheShigeTimes 新春特別企画 2003 
こぞをふりむきみてやれば       

語り手 上野茂都

-- 皆様、明けましておめでとうございます。本年も谷中の個展で幕を開けることになりました。
  この度は、本人の雑俳を紹介しながら、昨年の動きを振り返って見たいと思います。
  昨年は各地で展示会や演奏会が行われH.Pでも話題が豊富な年でした。
  まずは一月の個展「ねこねんが」(ギャラリー猫町)ですね。

  「俺は今 虎だ豹だと 猫が行く」

上・展示空間が大変面白い画廊です。作品数が無ければ埋まりませんので、
  年末年始も制作していましたから、かなりくたびれましたね。
  本年はその第二幕という事です。
  ちなみにこれから出てくる駄句は主に御礼状等に添えて作った物です。

-- その後三月に銀座で二人展でした。此処も猫専門の画廊ですね。(ボザール・ミュー)

  「前足を 揃えて猫は 餌を食み」

上・そういえば、去年はアパートの真横で鉄筋工事が半年も続き、騒音でへとへとになりました。
  頭も大部悪くなりましたね。 会期がくっついていると、
  同じものを出せませんので、これもかなりくたびれましたね。

  「月の夜に 哀れ鼓の 音も消えて」

上・研修旅行で木更津の 誠寺に行きました。狸伝説は愛らしくも哀しいですね。

-- 三、四、五月とオフノートの企画で浅草で演奏会がありました。
  特に最後は独演会で、二十五の曲名を見出し式にアイウエオで選んだ、楽しい構成でしたね。

  「あいうえお クラリネットが ぽぺぷぴぱ」

上・これは来た人にはワカル。(笑)
  四月末に突然決まった企画で、動員が心配でした。
  皆は沖縄に行ってしまうし、チラシ作りやら何やらで、かなりくたびれましたね。

-- 始終くたびれていますね。(笑)
  六月は武蔵野美術大学で特別講義「唄と形のあいだ」が行われました。
  階段教室が若い人でいっぱいでしたね。

上・初期の作品からスライドだけで三百枚位ありました。
  下準備で一ヶ月は掛かりましたね。
  歌まで歌う事になるとは思っていませんでした。かなり・・・

-- わかりました。(笑)でも貴重なVTRなども大画面で見れて大変面白かったです。
  ホームページでも今のところ石彫などの作品は紹介していませんね。
  初期の活動を知らない方も多いのではないでしょうか。

上・私の様にいわゆる「ファインアート」から入って十年以上発表してきた作家が、
  歌などの雑芸に手を掛けたり、商品性の強い作品を展示するというのは、
  誤解を招きやすく、本当はとても危険な事なんですよ。

-- あえてそれをしているというのは・・・

  「この虫よ 何故にそちらへ 行きたがる」

上・あえてという程のものでは無く、言わば「成り行き」です。(笑)
  実際五月の独演会とこの講座で、何となく自分に「花道」のような物を感じましたね。
  もうこれでエンドマークが出れば形になるよなぁ、と。
  ここ三、四年は精神的にも暗然とした日々が続いているのです。多少の免疫はありますがね。
  ただ内部の先生方や外部の先輩方・友人達が聴きに来て下さって、それは心底嬉しかったですよ。

-- 暗いというのは、不安からでしょうか。昨今の景気に関してはどう思われますか。

上・正直な話、私の年収は毎年百三十万円程度です。
  それすらも無いことがざらにあります。こういう人が景気を語る資格は無い。(笑)
  これは国が払う国会議員の給料の約一ヶ月分です。
  それでも自分では恵まれた人生だと思っているのです。
  安直に貧乏を口にする人はどうかと思いますね。
  まず所得と債務、給与、報酬などを明記してから語って頂きたい。(笑)

-- アーチストというと経済観念が薄いようにとられがちですが。

上・美術家を世捨人の様に思ってはいけません。
  ある意味では最も貪婪な人種でもあるわけです。
  私だって何も手をこまねいていた訳ではなく、自主企画で十数年も作品を発表しています。
  膨大な時間を割いて己の技を世に問うたわけですね。
  その結果、さして認知もされず、批評の対象にすらならないとすれば、
  挫折するのはむしろ当然、作品も疲弊してしまいますよ。

  「めほへひて ほへひめすまで ほへひょろひ」

-- やっている事を見ると、それほど深刻なようにも見えませんが。(笑)

上・不況(Depression)というのは意気消沈、まぁ「鬱」ですね。
  心理的要素も大きい。そういう患者に暗い話しをして病気が治ると思いますか。
  下手に励ますのも良くない。大切なのは話しを聞いて上げる事です。
  だから皆さんお出かけ下さいな。

-- なるほど、そうつながりますか。(笑)

  「仙人も 人が来たかと 振り返り」

上・春風駘蕩、羽化登仙、行雲流水、みんな周りがそうみるだけで、当人の焦燥いかばかりです。
  だからこそ、ほへひょろっと、楽しまなければいかんのです。

-- そのせいか昨年はその後に色々入って来るんですね。
  七月は今年二度目の京都ライブ(アザーサイド)九月は「変わり招き猫展」(ボザール・ミュー)
  十月は「二人展」(アートランド)

上・実は大学の講師の仕事が一年間延長されたので、気分が楽になったのです。
  あと一年は暮らせるな、と。現金なものです。ゲンキンアキナイカケスズリです。

-- ??十一月は京都で個展。「鹿ケ谷慕情」ですね。(ギャルリー・アンシャンタン)

  「招かれて 紅葉の道の 奥座敷」

上・哲学の道沿いにある画廊なんですよ。畳敷きの部屋があります。
  作品では京野菜や京菓子をモチーフにしましてね。これらの一部は今回の個展にも出品されています。
  てぇことは売れ残ったという事だ。(呵呵)

-- ここ数年、和紙に水彩という作品が多く、適度に懐かしく、優しい感じですね。

上・自分としては李朝の民画や大津絵の世界を追いたいのですが、あの飄逸さは中々出せないですね。
  虎なんか見たことが無くても描いちゃうんだから。
  手描きの版画だと思ってますが、大抵は最初の一枚が一番いいですね。
  これ画廊には内緒です。(静)

-- 今もアパートの部屋で制作されているのですか。

上・冬は炬燵でね。こういう仕事はあまり音がしないので、たまには描きながらテープで
  朗読や講演を聴いたりしています。
  中世の美術家は俳優を雇って仕事中に朗読をさせて教養をつけたとか、
  私もカノーヴァと同じ線をいっているなと。(笑)
  朗読を吹き込むような俳優は、実力者ばかりだから良いものですよ。
  「瑞穂君、今日は大貧帳を読んでくれたまえ。」すげぇもんだね、この収入で。(笑)

  「柿の葉に 包んで帰る 旅の空」

上・これは京都の帰りに奈良へ寄った時のもの。
  京都は観光シーズンですごい人混みでしたが、奈良は閑静で、空が広い。
  景観を守る規制があるそうですが、良かったです。
  普段は看板の中で暮らしているようなものですからね。    

 法隆寺にて 2002年11月

-- その際に神戸(ビッグアップル)、帰ってからは野田(JAM)で演奏がありました。

  「観劇に 炭酸煎餅 後をひき」

  「鴨蕎麦に 下地の町の 夜は更けて」

上・Sさん、Iさん、一宿一飯有難うございました。又呼んで下さいね。

  「麺太く 値段は安く 盛り多く」

上・これは上田の蕎麦屋です。解る人にはワカル。
  銭湯を探したんですが見つからなかったんですよ。
  悔しいからホテルのユニットバスに温泉の素を入れて入った。すっかり風邪ぇひいて、
  マルデコロガルイシノヨウニ帰りました。 

-- 十二月には福井で一人会ですね。大変盛況だったそうで。(福井大衆館)

  「蟹しゃぶも 旅の名残りと 汽車が来る」

上・良くして頂きましてね。企画してくれた方が、越前蟹を御馳走して下さったんですよ。
  これでしばらくは横這いが続くでしょう。

-- 年末には何かありましたか。

  「富浦に 吹けよ大願 南風」

上・彫刻仲間の忘年会で千葉に行った時、麻雀で対面の人が四暗刻を「南」で積もったんですよ。
  あれは反射神経の遊技ですね。
  私なんぞすぐに「えぇと、えぇと」だ。お陰様で良い厄落としが出来ました。

-- 色々と振り返って頂き有難うございました。さて本年の御予定は。

  「元日や 今年もどうして くれぞうる」

上・二月以降は未定。まったくヤリキレマセンな。(息)
  ひとつ「お楽しみ」があります。詳しくは言えませんが、
  映像関係のものだと、お知らせしておきましょう。
  多摩美術大学でも一度、特別講義を行うかもしれません。
  皆様にとりましても良い一年となりますよう、本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

                           (聞き手 TheShigeTimes 管理人)