君は知っているかい?
この森の奥深くにたたずむ大きな一本の楡の木を。
人知れず静かにひっそりと立ちつづけるこの木には
君のおばあさんがまだ子供だったころ…いや
それよりもずっと昔から
とても不思議な言い伝えが残されている。
「あのお花畑の楡の木には
昔から恐い悪魔が住みついているから
満月の晩には絶対に近づいちゃだめだよ。
あんまり長い間光る蝶々を見ていると
その人もいつの間にか
同じ蝶になってしまうんだよ。」
いつの頃からだろうか
その楡の木の周りには
美しい花々が咲き乱れるようになっていた。
華麗で鮮やかで君たちがとても良く知っている
それでいてその花の名はだれも聞いたことがない…。
そんな不思議な花々が一面に広がっているのだ。
そして四年に一度
そう今夜のような見事な満月の晩に花々が咲き開いた時
蝶の群れがどこからともなく現れ、
花々の上を飛び交うという。
その蝶の群れは
あてどなくさまよう蜉蝣のようにはかなく寂しげで
その湖水のように澄んだ羽は
月夜の空の色を染め移したかのように
おぼろげで美しく輝いている…。
それは誰一人としてみたことのない
あたかも一夜の夢のような風景なのだ…。