Dr.KEIのたわごと
トリチウム汚染の処理
  ---高密度化深海底放出の提案---
 東日本大震災における被害の中でも、福島原子力発電所の事故は現在もその終息の見通しがたっていない。現在切迫しているのが敷地内に保管されている膨大な量の汚染水の処理である。事故後冷却作業などで発生した汚染水は「多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)」で大部分の放射性物質を取り除いてALPS処理水として保管されているのはよく知られている。現在敷地内で保管できる量の限界に達しつつある。そこで、海洋放出等の処分法が検討されている。
 ALPS処理水は、ほとんどの放射性物質を環境基準以下に除去することができるが、そのなかでもトリチウム(三重水素、略号T)の除去は非常に困難となっている。むろん、膨大な費用をかければ除去できないわけではないが、現実問題として実行不可能と考えられている。トリチウムは水素の同素体であり、化学的性質がほとんど水素と同一であり、水の分子H2 Oの中のHと置き換わってしまって、1個置き換わったHTOとか2個置き換わったT2 Oとなっている。これがトリチウム水である。こうなると、ほとんど水と同じであるから、これを分離除去するのは無理なのは容易に想像できる。
 じつは、事故ではなく、世界中の通常の原子力発電所の運転でも、定常的にトリチウム水は発生しており、適当な濃度に薄めて海洋放出されているのが実態である。トリチウムから出る放射線が弱いうえに、体内に取り込んでも蓄積されないので、それでも安全と考えられているからである。
 そこで、福島のALPS処理水も海洋放出してしまおうというのが政府方針である。しかし、理屈では安全はわかっていても、風評被害などを考えると、地元民の心配も理解できないわけでもない。そこで、そんなに莫大なコストをかけずに、風評被害の出ない形で海洋投棄できないかを考えてみた。
 通常の水とトリチウム水の違いは重さである。通常の水H2 Oは分子量が約18であるが、HTOは19、T2 Oは20であり、その分、トリチウム水の混じった水は重い。すなわち、底の方に沈みやすいと考えられる。
 それで提案したいのが、ALPS処理水に塩を投入して、海水よりわずかに比重を重くして、深海底にホースで放出してはどうだろうか?通常の海水の塩分濃度は3%であるから、4%くらいにしてやれば、海底にとどまってくれないかと期待できる。幸い、福島の沖には日本海溝という世界屈指の深海があり、そこの海底に放出するのである。そうすれば重いトリチウム水もとどまってくれるはずである。
 トリチウムはベータ崩壊して約12年の半減期でヘリウム3というヘリウムの同位体となり無害化される。そのくらいの期間であれば深海底にとどまってくれるはずである。
 ホースの敷設と塩のコストはかかるものの、これが比較的安価で安全に実行可能な方法じゃないだろうか?


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