2002・9 槍ヶ岳紀行
北アルプス・久しぶりの槍ヶ岳登山となりました。
9月11日 天候 くもり
東京は花曇りの中、朝7:00過ぎに自宅を出発。
明るい時間に出かけるのは日帰り登山のときくらいである。
まして、行きに特急などに乗るのもはじめてかもしれない。
昨日の曇天に比べて青空が見え初めているので、これから好天に向かうのではないだろうか。
立川駅に着くとやはり通勤時間帯でもあり、大きなザックを背負っているのはわたしひとりである。
が、これから山へ行かれるのか小さなザックを背負った方はいる。
八王子8:33発「スーパーあずさ3号」に乗るがかなり混んでいる。
甲府に9:30頃に着いたがまだ曇っている。
出張らしい方々が甲府で降りるとかなり空いて、ようやくここで座ることが出来た。
小淵沢を過ぎて青空が多少覗いてはいるものの八ヶ岳あたりは依然として雲の中である。
10:37 松本着
残念ながら常念ほか北アルプスは雲の中である。
松電上高地線に乗り換えると平日というのに乗客の半分は登山客。
車窓には黄金に光る稲穂が頭を垂れている。そして、蕎麦の真っ白な花、まもなく新蕎麦の季節である。
早くもコスモスの花も咲いている。
新島々でバスに乗り換え、13時少し前に上高地に到着。
13:10 上高地バスターミナル発
やはり観光客のほうが多いが平日でもあり、わりと静かである。
気温も思ったより高くTシャツ1枚でちょうどいい感じ。
13:50 明神着
青空は見え初めているが、広がっていきいそうにはない。
風はとてもここちいいし、緑も鮮やかで目に染入るよう。
14:00 明神発
明神と徳沢の途中で日立から来られたという親子の方と一緒になった。
お父さんの方は70歳を過ぎたとおっしゃられていたが、とても健脚でいられる。
上高地から横尾までコースタイム3時間ほどのところをわたしと同じ2時間半ほどで歩き通して来られた。
空荷ならともかく10kg以上は背負っているであろうに。
いろいろな話をしながらだとこの道もあっと言う間に感じられた。
14:40 徳沢通過
そう、ここでも一息入れるかと思っていたらなんと軽く通過してしまったのである。
15:30 横尾着
横尾に着いたころより雲が低くなりなんとなくいやな感じである。
山荘でキャンプの受付を済ませテントを張る。
やはり、平日ということもあり横尾でテントを張っているのはわたしを含めて7組くらいである。
小屋もなんとなく静かである。
物音と言えば梓川のせせらぎと小鳥のさえずりくらいなもの。
4:30から食事の用意。
今夜は五目御飯に味噌汁、あと野菜ジュース。
食事が終わると眠くなりちょっとのつもりが起きたら8:30であった。
あすのお天気が気になり外へ出てみると満天とはいかないが雲の切れ間から星が覗いている。
なんとか晴れてほしい。
山の中いると何を考えているの?と珠に聞かれることもあるけれど、ほんと不思議なものでこうしてこの日記を書いている今もほかの事はなにも全く頭に浮かんでこないのである。
うとうとしていると川のせせらぎとは別のテントを叩く音がする。
雨である。
ついに降り始めてしまった。
雨脚は弱まらずに、かえって激しさを増すばかりである。
9月12日 天候 くもり
4:30に目を覚ます。
やはりまだ少なくなったが雨音がする。
大丈夫だろうか。
パンで軽い朝食を済ませ、一応出発の準備はしておくことにする。
空もだいぶ明るくなり始めると、重く垂れ込めていた雲も少しずつではあるが薄くなっていくようである。
なんとか回復して上に着くころには晴れてほしいものである。
6:20 横尾発
朝日を受けて輝く梓川の美しい渓谷沿いの岸に沿って槍沢ロッジまでそれほどの高低差もなく登って行く。
ハイシーズンであればにぎやかであろうこの道もきょうは前後に人影もなく静かである。
マイペースでゆっくりと歩くことが出来る。
この景色を独り占めなんてなんとも贅沢な限りである。
7:40 槍沢ロッジ着
本日、槍へ入る人はかなり少ないようである。
横尾からわたしを含めて3〜4人ほどではないだろうか、というのは槍沢ロッジで休憩をしている間に上がってこられたのが2人ほどしかいなかったからである。
後は槍沢ロッジから10数人上がって行ったようだ。
8:15 槍沢ロッジ発
ロッジから樹林帯のなかをしばらく行くと視界が開ける、そこがテント場。
そして槍が正面に見上げられるはずであった。
しかし、低く垂れ込めた雲の中に隠れてしまっていた。
そして、ここからしばらく行くと本格的な登りに掛かる。
9:15 水俣乗越分岐通過
10:40 天狗原分岐通過
お花畑の間を抜けると坊主岩小屋と呼ばれるところにたどり着く。
ここはその昔、槍ヶ岳を開山した播隆上人が起居をした岩穴があるところである。
ここからは見上げるようなジグザグな道を槍岳山荘まで登りつめる。
槍ヶ岳が一瞬姿を現したが、すぐにガスにかき消されていってしまった。
槍岳山荘もすぐそこに見えているのだがなかなかたどり着けない。
あともう一息だ。
14:00 槍岳山荘着
受付を済ませテントを張るときになって急に雨が激しくなってきた。
いまさら雨具を出しているよりは早く張ってしまったほうが。
5分ほどで張ったが、もうずぶぬれである。
着替えを済ませ、持ってきたウィスキーで身体を暖める。
19:00過ぎからは暴風で飛ばされるのではないかと言うくらいである。
ひとりでは心細いところであるが隣りに大学生のパーティーがテントを張っているので、このときばかりはその声がうれしい限りである。
でも、早く止んでほしいものである。
一晩中吹き荒れたらどうなるのか見当もつかない。
小屋泊まりにすれば良いものをときっと言われるであろう。
でも、一生忘れることのない誕生日になった。
明日は停滞か撤退か。
でも、14日から天気も回復に向かうかもしれないとのこと。
まあ、明日の朝のお天気次第なのであろうか。
大地からテントごと剥ぎ取ろうとしている風。
これでもかと言うくらいテントをばたつかせている中でわたしは持って来た小説を読んでいる。
もう、22:00である。
都会にいればまだという時間であるが、日が落ちてしまったらすることのない山の中ではもうなのである。
夕食を摂ったのが17:00ごろだった。
ほぼ一畳の広さのテントの中で5時間一歩も外に出ないでいられるのも不思議である。
と言って、この状況の中では外に出てみろと言われても遠慮させて頂くのであるけれども。
今回の山行できょうが本来一番疲れるはずなのであろうが、目が冴えている。
風の音のせいであろうか。
これほど風を身近にというかテントの薄い布の外ではいまだに吹き荒れているのである。
きょうはお天気も良くなく写真など撮らずにただひたすらここまで登ってきた。
標高3000mの稜線上である。
この音やテントのはためきは言葉ではどうにも伝えきれない。
しかし、この状況を結構たのしんでいるのかもしれない。
でも、飛ばされるのではないかと不安でもあるのだが。
このように書いていられるのが不思議である。
外の様子を確かめて見たい欲望もあるが、それこそ無謀であろう。
9月13日 天候 くもり
4:30起床
隣りのテントも起きたようである。
朝食の準備を始める声が聞こえる。
まだ、多少風が残っている。
朝食を済ませ、折角ここまで来たのであるから、槍ヶ岳には登って帰ろう。
今回はそのために来たのであるから。
風は止んでいたが、そのかわり今度は小雨が降り始めた。
これは登ったとしてもガスってなにも見ることはできないだろうなあと諦めた。
が、なんと運のいいことだろう。
頂上にたどり着いたとたんに、裏銀座方面から徐々にガスが取り払われていった。
360°とはいかなかったが、それでも鹿島槍・剱・黒部五郎・笠・乗鞍そして御岳などを望むことができた。
しかし、槍・穂高の稜線上ではわずか大喰岳が望めるだけであとはガスのなかである。
穂高もジャンダルムを一瞬望むだけでそれ以外はついに姿を現すことはなかった。
どれくらい頂上にいたのだろうか。
30〜40分くらいはいたのかもしれない。
飽きることなく眺めていたいところであるが、ガスが昇り始めて来たので降りることにした。
テント場に戻り、テントを撤収している間に槍はガスのなかに隠れてしまった。
9:15 槍ヶ岳発
今後のお天気の回復は望めそうになく予定の半分であるが下山することに。
飛騨乗越から新穂高温泉への下山と決めた。
飛騨乗越からしばらく下りたところで振り返って見上げたが、稜線はガスのなかに隠れてなにも望むことはできない。
正面には鏡平の山荘の赤い屋根、そして弓折・抜戸・笠の稜線がわずかに望めるだけであったが、これもまもなくガスに掻き消されていってしまった。
この後はひたすら樹林帯のなかを下るだけである。
11:45 槍平小屋発
12:15 滝谷出会通過
13:30 白出小屋着
13:40 白出小屋発
ここからは林道を歩いていくことに。
15:00 新穂高温泉バスターミナル着
ようやくバスターミナルである。
残念ながら予定の半分で新穂高温泉へ下りてくることになったが、天気の回復が望めそうになかったので仕方ない。
でも、このお天気のお陰で新穂高温泉に一泊して帰ることに。
9月14日 天候 くもり
新穂高温泉から出発地の上高地へと廻ってきた。
大正池で下車してバスターミナルまで歩くことに。
荷が肩にずしりと重いのであるが、バスターミナルから往復するのはたいへんそうであるし、こちらを選んだのである。
ゆっくり歩くにはかえってこちらのほうがいいかも、なんて負け惜しみである。
やっぱり重い。
バスターミナルに着くと相変わらず観光客のほうが多いが、やはり3連休。
山へ入る人も結構いるようだ。
バスターミナルに着くころには穂高の稜線もガスに覆われてしまった。
夏のお天気を考えると今年の涸沢の紅葉はあまり期待できそうもない。
わたしの今年の穂高はこれで見納めになるのであろうか。
後ろ髪を引かれる思いでバスに乗り込み、上高地を後にした。
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。m(_ _)m
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