ブレーキキャリパーの整備

ブレーキキャリパーの整備はとても好きな作業です。
バイクの調子が良くなった事を必ず実感できるからですが、
その反面、緊急性があるわけではないし
時間がかかるうえに途中でやめられないしで
取り掛かるのは億劫だったりします。

この日は曇った祝日で特にする事もなかったので、
そろそろ時期となる F ブレーキパッドの交換をする事にしました。
新品のパッド自体はちょっと前に購入してあります。


ZX-9R(F) の場合、パッドの交換だけなら、
F フォークからキャリパーを外す必要はありません。
しかし今回は掃除とメンテナンスも行うため、
F フォークのアウターケースから、キャリパーを取り外す事にしました。

キャリパーがブラブラになってしまうと力をかけにくいので、 F フォークに付いているうちに、パッドを留めているパッドピンを緩めておきます。 僕のバイクはパッドピンもねじ込み式なので そうしておかなくてはなりませんが、 ベータピンで抜け止めがされている車種ならば、 この手順は必要ないと思います。

キャリパーの取り付けボルトを緩めて、 キャリパーをF フォークのアウターケースから外します。 緩めるだけですからメガネレンチで無造作にネジを緩めます。 当たり前ですが、スパナやモンキーレンチはご法度です。

取り外したキャリパーは、ブレーキダストでひどく汚れていて、 触ると手が真っ黒になります。 油分はないので粘着質ではないのが幸いです。

キャリパーをバラシます、とはいってもこのキャリパーは対抗 4 ポッドなので、 日常メンテナンス程度で分解する部品点数は少なく、 ブレーキパッド、パッドピン、パッドスプリングぐらいです。 先ほど緩めたパッドピンを外し、ブレーキパッドを外します。

外したブレーキパッドをしげしげと眺めます。 まだ少し溝が残っているようで、あと 2000km ぐらいは走れたかもしれません。 1台分のフロント W ディスク分のパッドは \6199 × 2 セット、\12398 ですから なかなか馬鹿にできない額です。 できるだけ使いきって交換したいものですが、 ケチりすぎて限界を超え、ブレーキディスクを傷つけてしまっては元も子もないので、 このぐらいでよしとすべきなのでしょう。

部品を外したら、キャリパーをバケツのお湯にドボンと漬けて、 中性洗剤などで洗います。使い古しの歯ブラシなどがあるといいです。 お湯が真っ黒になるぐらい汚れていますが、 洗剤成分自体はそんなに必要としないはずです。 ピストンの外周も丁寧に洗ってやります。

ピストンの外周を洗う、と書きましたが、 その際にピストンを回転させたかったり、 せり出させたかったりすると思います。 ブレーキレバーを握ったり、 指で掴んだりしてもいいですが、 「ブレーキ キャリパーピストン ツール」というのがあると楽です。 僕のはデイトナ製で \3000 程度でした。

サークリッププライヤーのように、握ると先が開くので、 ピストンの内側の中空部分にあてがって開き、保持するわけです。

パッドピンも洗います。 汚れが固着したりしている場合は、紙やすりを軽くかけて表面をならしたりしますが、 今回は変色している部分にも段差は感じなかったので、洗っただけです。

パッドスプリングも洗います。このパッドスプリングを外してしまっている方もお見受けしますが、 僕はそこまでのタッチは要求しないので装着しています。

今回の僕はパッドを交換するのでやりませんでしたが、
パッドを続けて使う場合はパッドも洗います。
ブレーキパッドのローテーションというのはあまり聞きません。
磨耗の偏りがブレーキ性能に与える影響を考えると、
外した通りに組み付けるのが一番いいような気がします。

各部品が綺麗になったところで、水分を飛ばして各ピストンの揉み出しをします。 ピストンの外周にシリコングリスを薄く塗り付け、 押し込んだり、ブレーキレバーを握って引き出したり、 さっきのピストンツールを使ってグリグリしたりします。 どれぐらい行うかの目安としては、ブレーキレバーを握ってみて (4 ポッドの場合)4つのピストンが均一にせり出してくるようになるまで、 と言われていますが、僕の場合はどうしても均一にならないので、 スムーズさに満足するまで、としています。 ピストンを引き出す時は、引き出し過ぎて抜いてしまわないように注意が必要です。 抜いてしまうと、ブレーキフルードの処理や再注入、エア抜き等と、 作業が倍になってしまいます。 写真でキャリパーに噛ませてある物は板切れで作った治具で、 手前のピストンを集中して作業できるように、 奥のピストンが出てこないようにしてあるものです。

満足するまで揉み出しを行ったら、今度は部品を組み上げます。 新品のパッドは見るからに分厚いですが、 ここで注意なのはマスターシリンダーのリザーバータンク内のブレーキフルードの量です。 パッドが厚いため、組み付けるためにはピストンを押し込む事になりますが、 そうするとフルードはリザーバータンクに戻っていき、 フルード量の調整具合によってはタンクのアッパーレベルを超えてしまいますから。

今回僕は忘れていましたが、
新品のパッドは角をヤスリで落としておくと、
鳴き止めや初期タッチの向上に役立つようです。

鳴き止めのためにパッドの裏にうっすらとグリスを塗り、 稼動部潤滑のためにパッドピンにも薄くグリスを塗ってから キャリパーを組み立てます。 各グリスは本来、耐熱グリスやらモリブデングリスやらがいいと言われてますが、 どうせうっすらとしか使わないですし、 僕はブレーキキャリパーのメンテナンスにはシリコングリスしか使っていません。 しかし推奨はしません、皆さんは自己責任においてグリスのチョイスをしてください。

せっかくキャリパーが外れているので、 この機会に普段手の入らない所を拭き掃除します。 この時、ブラブラしているキャリパーがあちこち傷つけそうであれば、 キャリパーに軍手を嵌めてやるといいです。

綺麗になったキャリパーを、F フォークのアウターケースに組み付けます。 まず各ボルトを指で締めこみます。 次にレンチを使って軽く締めこみます。 本締めをする前に、この辺でパッドピンは締め付けてしまいましょう。 さてこの時点でブレーキレバーを握ってみると、 スカスカのスポンジーなはずですから、 何度もニギニギして性能を取り戻します。 性能が戻ったら、バイクを押し歩きながら何度かブレーキングします。 これは何のためにするかというと、 キャリパーの装着には「遊び」があるのですが、 走行時にブレーキングした時にキャリパーが来るであろう位置に、 あらかじめキャリパーを「寄せておく」ためです。 キャリパーが寄ったかな?と思ったら、 トルクレンチを使って本締めをし、取り付け完了です。 あっいや、まだ片方が終わっただけでした。 W ディスクなら、同じ要領でもう片方もやらなければなりません。


上記の作業にはオチがあります。 片側の作業が終わって、もう片側のキャリパーのメンテ及びパッド交換をしたのですが、 そっちのパッドはもう使用限界ギリギリ、 ジャストタイミングでの交換となったのです。 これはうれしい反面、空恐ろしい事でもありました。 左右でこんなに減りが違うとは思っていなかったので、 パッドの残量は片側しか覗かない事も何度かあったからです。 これからはちゃんと、左右両方をチェックしないといけないな。

作業後は、ブレーキのタッチが劇的に変わります。 具体的には5段階だったブレーキコントロールが8段階になるような感じです。 手は汚れますが、汚す価値はあると思うのでお勧めいたします。