一発免停の顛末

指定速度違反をネズミ捕りによって検挙され、免許停止処分を受ける事になった。 30km/h以上50km/h未満の速度超過で、俗に言う赤キップを切られたのである。 違反時の詳細についてはいまさら書く必要もないだろう。 検索してこのページにたどり着いた人達の手元には、 おそらく赤キップが同じようにあるだろうからだ。 ここでは、赤キップを喰らったらどうなるかという一例を記す事にする。 ネズミ捕りに引っかかったその日は、僕も不安でいろいろと検索した。 インターネット上にはかなりの数の体験談がアップされており、 僕がこのテキストで目新しい事を書けるとは思わないが、 参照できる事例は多ければ多いほどいいだろう。

違反後のスケジュールとして、19日後に簡易裁判所の即決裁判または
略式手続きによる裁判を受ける事を、取締りを受けた時に通知されている。

ネットで調べてみると、僕の違反は点数6で、前歴はないから30日免停、
10万円以下と言われた罰金は変動があるらしいが、
たぶん7万円ぐらいではないかと思われた。


検挙されてから16日後。
警視庁運転免許本部から、行政処分出頭通知書が届く。 違反の日から26日後、つまり通知書が届いてから10日後に免許試験場に来いという。 この通知書が届くのも、出頭の日も、違反の日から数えると結構迅速だ。 違反場所と現住所が同じ東京都だからだろうか。 点数はもう判明しているのだが、 この通知書でやっと、正確な「免許停止処分の開始日」が判明する。

またこの通知書は、処分者講習のお誘いも兼ねている。
前歴0回の点数6、の30日免停の場合は13,800円を払って
朝から夕方までの処分者講習を1日受けると免停期間が短縮される。
講習後の筆記テストで「優」を取れば、そしてほぼ全員が「優」を取るらしいが、
免停期間30日間から29日間短縮され、
行政処分出頭日当日だけの免許停止となるらしい。

これにはかなり頭を悩ませた。
講習を受けない場合の免停30日間というのは、
運転できなくとも仕事に差し支えない場合は、さほど我慢できない日数ではない。
むしろ初めての免停なのだから、甘んじて処分を受けてもいいぐらいである。
罰金13,800円というのは高い。
…しかし払えない額ではなかったりもするのだ。実に絶妙な設定である。

まぁ、講習を受けるか受けないかを決めるまでにはまだ少し猶予がある。
天気や週末に入ってくる予定と照らし合わせて決める事にしよう。


検挙されてから19日後。
朝から隣町の簡易裁判所に出向く。
…いや、簡易裁判所に行くのかと思ったら、併設されている検察庁に行くのだった。
受け付けは8時30分から11時までとなっていたので、
文面どおり受け取れば、その2時間半の間のどこかで行けばいいはずである。
予定では殊勝にも、受け付け開始前に到着するはずだったのに
慣れない路線を使ったために、到着したのは9時であった。
裁かれる身としては、いつ来てもいいよと言われても
やはり受け付け開始前に待機しているぐらいの態度であるべきだと思ったので
この遅れが不安であったのだが、着いてみればやはり問題はなかった。
しかしこの受付け時間の長さはちょっと、違反者に融通を効かせ過ぎのような気もする。
もっとも、いちどきに来られても対処できずに、逆に困るのだろう。

即決or略式裁判を望む場合は、裏面の署名を済ませた赤キップを窓口に提出して受付けてもらう。
ここに捺印が必要だし、後で免許証を返してもらう時にもハンコが必要なので、
三文判は持っていかなくてはならない。

受付けが済んだら待合室(1)で待機となるが、僕の場合は2〜3分だった。
スピーカーで名前を呼ばれるので、調べ室に入っていく。

この調べ室では淡々と、違反の内容に間違いがないか、また本人に間違いないかを確認され、
受け取りに捺印して免許証を返してもらった。

先ほどとは違う待合室(2)で待機。ここまで7分。


さて、待合室(1)の壁に、交通事件処理の案内が掲示してあった。
それによると、

受付け

待合

警視庁交通執行課の事件取調べ&免許証の返還

待合(今ここ)

検察庁検察官の事件取調べ

控え室

簡易裁判所略式裁判(裁判書受領)

罰金の納付

     で終了とある。


この待合室ではずいぶん待たされた。
暇なので壁に掲示してある資料を眺める。
交通違反のデメリットなどが記してあるのだが、それによると
過去6年以内に6点以上の違反がある場合は、免許更新時に
「違反運転者」扱いとなり、免許更新時の講習を2時間受けなくてはならない。
講習手数料は割り高の1,700円だ
(一般運転者は1時間で1,050円。ゴールド免許は30分で700円)。

待っていると、僕より後に待合室に入ってきた人が、僕よりも先に名前を呼ばれて出て行く。
きっと彼らは累積の免停とかで、僕は一発免停(重罪人)だから扱いが違うのだろう、と
考えてはみたが、それにしては僕と同類の人が全然いない。
みんな僕を抜いて、さっさと調べ室に入っていくので、
忘れられているのではないかとさすがに僕も焦ってきた。
思い切って調べ室をノックして、「まだ呼ばれないんですが…」と聞いてみようかとも思ったが、
神妙にしているべきという考えと折り合いが付かずにイライラしながらさらに待つ。

結局この待合室では1時間半待たされた。

やや早足に女性の事務員さんが待合室に入ってきて、赤キップを僕に差し戻した。
罰金額がこれで決まったので、その赤キップを持って罰金を払いに行くように、と言われる。
僕はチンプンカンプンだが、とりあえず言われたように窓口で罰金を支払う事にする。
罰金額はジャスト5万円。思っていたよりは安かった。
現在ゴールド免許だったのが加味されたのかな、等と考える。

領収書をもらうと、窓口の人が「はい、ではこれで。」みたいな曖昧なことを言う。 よくわからないがこれで全部終わったのか? さっきの「処分の流れ」の掲示の、検察庁検察官の事件取調べとか 簡易裁判所略式裁判はどこに行った?  帰っていいのか? 何か手続きを忘れてて後からまずい事になったりしないのか?  罰金支払い窓口の人に「これで終わりですか?」と聞くと、 「行政処分はまた別にありますから」と答えが返ってきた。 いやそれは知ってるけど、ここでの手続きはもう終わりなんですかって事なんだけど…。

なんだか納得できずに、検察庁の受付け窓口で赤キップと罰金領収書を見せ、
「あの〜、裁判とかやってないんですけど帰っていいんでしょうか?」と聞いてみた。
するとやはりここでの手続きはこれで終わりで、もう帰っていいという。
うーんどういう事なんだこれは。
要するに金を払いに来ただけなのか?
「あなたは罪を犯したのですよ」とか「反省しなさい」とかの一言もなく、
金融機関の窓口での公共料金納付のように淡々と金を払っておしまい?

帰宅してから調べてみると、
略式裁判というのは罰金額を審議・決定する事なんだそうで、
裁判官と被告との接点はないそうだ。
その接点の部分は、取り締まり現場での取締官とのやり取りや、
これからの行政処分場所での担当官とのやり取りが受け持つという事なのだろうか。
しかし…なんというか…まるで営利団体のようで、
この略式裁判という制度にはどうにも納得できなかった。
だがとりあえず、忌々しい一連の処分の前半が、これで終わった。


検挙されてから26日後。
行政処分を受けに、免許試験場に行く。
考えた末に、処分者講習を受けて免許停止期間を短縮する事にした。
なんと言っても夏のバカンスシーズンであるし、
下の子が生まれたばかりで、家事として運転の機会が多いからだ。

まず窓口に行って、免許証と出頭通知書を提出し、代わりの書類を受け取る。
ここから、講習を受ける者と受けない者は別れる事になる。
講習を受ける者は、13,800円の証紙を買い、
書類に必要事項を書いて申し込みをするのだ。
この時、担当職員がやたらと、この講習が任意である事を強調して連呼する。
おそらく天下りとか諸問題への風当たり回避のためだろうと思ったが、
本当にその辺がわかっていないオバちゃんもいそうなので、
後で揉めないように、必要な事なのかもしれない。
申し込みをしたら、講習室に入室する。

・ボールペンか万年筆が必要である。
・講習時間には着席していないとならないが、遅刻は1分1点の減点だそうだ(脅しだけかも)。

まず諸注意と書類の作成である。
特に難しい事はなく、言われた通りにしていればいいのだが、
その記入方法の説明によって、30日免停の処分者が集まるこの講習に、
事故によって他人に「傷害を負わせた」ドライバーが混在している事を初めて知り、
(僕のやらかした)スピード違反という、事故に繋がる可能性が「ありえる」違反と
直接的に、既に他者を傷つけた違反とが同列に扱われる事に、
内心で憤慨した。憤慨したが顔には出さない。

僕は四輪は「普通自動車」の免許を持っているはずだったが、
書類に記された区分はなぜか、「中型」自動車になっていた。
おかしいなと思ったのだがこれは、2007年6月の道交法改定により
区分が変わって、従来の「普通免許」が「中型免許」となったのだった。

次は適性検査だ。
この検査の結果は、講習終了時の成績には反映しないという。
であれば、自分の本当の問題点を見つけるために正直に書いたほうがいいのだろうが、
自覚している問題点をことさら指摘されるのは癪だし、
回答を自制できるという事は、実際にも自制が効く事なのだ、と
なるたけ模範的になるように回答して提出した。

次は講義。現在の交通事情とドライバーのルール、モラル、マナーについて。
講義の担当官が悪いわけじゃないけど建て前論も多く、
聞いていてやや空しい。
しかし僕は罪人なので黙って聞く。
ここまでが午前の部で、これが終わると昼休みとなる。


午後は実車による試験場コースの運転から始まる。
この運転も、講習の成績には関係がない。
3名ずつ乗車した中で僕が最初に運転したのだが、
その後、二番目の講習生の運転がもう怖くて怖くて、
なんでこいつはこんなにも、「求められる教習所走り」をできないのだ、と
なかば呆れながら不思議だった。
もしかしたら成績に反映しないから、
あえてご機嫌を取る事もないと思ったのかもしれないが、
持ち物からバイク乗りらしい事がわかったので、
四輪はペーパー免許なのかもしれなかった。
そう、バイクで違反をしても四輪でコースを回るこの矛盾。
まぁ結局そういう事なのさ。

次は運転シミュレーターだ。
酔いそうになる、とは聞いていたが、本当に軽く3D酔いする。内容は、
前車との車間距離を変えながらの制動体験、と
道路状況(ドライ、ウェット、凍結)による制動距離の変化の体験、
それに市街地での様々な状況に対応した運転の体験、である。
実際に体験する機会のない追突やら事故をバーチャル体験させたかったのだろうが、
ゲーマー舐めるなよという感じで、シミュレーターが意図した事故イベントは発生させなかった。
とはいえ無効判定になってしまった部分も多く、判定はB。

そしてまた講義。今度は法規と運転テクニック、車の構造について、等。

次はいよいよ考査、つまり筆記テストだ。
出る問題のほとんどが、ここまでの講義で取り上げられた部分なので
パーフェクトに答える事ができる…はずだったのだが、
いくつかこれは意地が悪いな、という設問があった。
ネット上の情報では、引っ掛け問題はないという事だったが、
講義のやり方によっては、設問が引っかけと作用する場合がある。
例えば設問に
「運転の疲れは動体視力にもっとも強く現れる…正か誤か」というのがあった。
確かに講義で動体視力が低下する事は取り上げたが、
「もっとも強い」かどうかには力を入れずに話をされたと思う。
この問題の争点が「もっとも強い」かどうかであれば、
講義を聴いただけで答えるのは非常に難しい。
確かに、講義で使われた教本を読み返せば、
疲れは動体視力にもっとも現れると書いてあるのだが
講義ではその部分はさっと読んだだけであり、思い出せる物ではない。
結局僕は「もっとも」を無視する事にして「正(○)」と回答したので
おそらく正解を得たはずだが、
経験からいうと、疲れが一番影響するのは「判断能力」だと思うのだが…。

考査が終わると次はビデオを見せられる。
事故の原因を解き明かす…といった内容だったが
どうにも車同士を両成敗にしたがる傾向が強くて辟易した。
譲り合いの見地から、そう啓蒙しているつもりだろうが
それではルールは確立できないと思う。

次は先ほどの、適性検査とシミュレーターの結果を各人に返して、その解説と、
免許点数制度・参加した講習生の点数が今後どうなっていくかの説明である。


(前歴なし・6点の違反で30日免停の場合)
免許停止処分をまっとうした事で、点数はゼロに戻る。
これは講習に参加して処分日数が短縮された場合にも適用されるので、
講習の成績で「優」を取って29日短縮されれば、
免停期間は講習日のみとなり、
翌日の運転可能日には点数ゼロになっている、という事である。
しかし前歴1が付くので、処分の基準はスライドしてのしかかってくる事になる。
例を挙げると、今後しばらくは4点で60日免停となる、等だ。

「連続して1年間、無事故無違反」であれば、前歴も消える。
スライドしていた処分基準も元に戻るという事だ(6点で30日免停)。

2年間、無事故無違反を続けると、
軽微な違反が3ヶ月で消えるという特典が付加される。


といった感じだ
(付け加えれば5年間無事故無違反でゴールド免許である)。

これで講習は終了である。
最後に成績票を渡される。ほぼ全員が「優」だったらしい。
という事は、免停期間が29日間短縮されて1日間、
つまり本日のみが免許停止処分という事だ。
予定調和的であるが、平和な事には違いない。
続いて今後の手続きの説明がなされ、講習室から解散。
別の窓口で免許証を返してもらう。
講習室でも最後に言われた事だが、
本日中に運転してしまうと無免許運転となる旨をここでも繰り返し言われる。

免許証を受け取ったら、試験場を後にする。
夕方になってしまっており、場内はもう閑散としている。
という事は、今から試験場を出て行く者はかなりの確立で処分者講習受講者であり、
車なりバイクなりで出て行く者を停めれば、
免許停止中の者の入れ食い、となるんじゃないだろうか。
そんな事を考えながら帰路を歩いた。

スピード違反に対する罪の意識は、実は今でもあまりない。
それが「事故の可能性」に対する処分だからで、
既に他者に迷惑をかけた行為とは一線を画すからである。
ただ、状況によってはスピードを出す事が、他者に脅威となる事もあろう。
そういったケースをどう分けるかというと
やはり出ていたスピードで括るしかないだろうし、
スピードを出した事自体
僕個人の嗜好のためにだけ行った行為であるから
それを咎める事にしてついでに搾取しようとする勢力が現れるのは仕方ない。
だから、ことスピード違反に関してだけ言えば、やはり
「今度から捕まらないようにしなくっちゃ」と思うのだ。