以前に記事にしたバイク盗難の話だが、話としてはだいたい終結したので報告したいと思う。 非常に後味が悪い結末であり、僕としてもたいへんやるせない思いでずっと手をつけず、 このままこの話は放っておこうかとも考えたのだが、後の参考になるかもしれない事と、 いろいろな人に心配をかけた事もあり、まとめておく事にする。
とてもシリアスな話なんだけど、このテキストに関してはところどころ気軽な言い回しを使う事を御容赦願いたい。 それから最初に断っておくけれどもこの話にどんでん返しなどのオチはない。
また、理由は読んでもらえればわかると思うけれども以前のバイク盗難の記事から、 被害者つまり僕を特定できる箇所は削除した。このテキスト中にもそういった臨場感のある固有名詞は出てこない。 クレームが目的ではないので、これも勘弁していただきたい。

5月18日(土)
午前中に用事を済ませてのんびり東風荘をやっていると、電話が鳴った。 ポーズのかけられないゲームをしている時の僕は、 例え家にいるのが僕一人であっても電話に出ない事を知っている女房が出て、 何やらしゃべっている。口調から真面目な電話だとは思ったが、 切羽詰まった(不幸とか)用事ではなさそうなので特に気に留めないでいると、女房が代われと言う。 「○○警察署から」…、思い当たるのは去年の12月に盗まれたバイクの事しかない。 東風荘は逆転の三色の手だったがしょうがない。鳴いていってもいいからと女房に代打ちを頼んで受話器を受け取った。

てっきり乗り捨てられたバイクが発見されたのだろうと思ったのだがそうではなかった。 要約するとこうだ。今年の2月に、無免許の少年が、僕のバイクに盗んだナンバープレートをつけて走行中に車と大事故を起こした。 少年は重傷を負い、搬送された時は集中治療室に入るほどで、一生足に障害を負う事になるだろう。 4月の退院と同時に捜査を始めたので、バイクの車体番号で盗難届の出ていた僕に連絡する事となった。 バイクは盗まれた状態から改造されているようだし、それでなくとも事故で大破して、もう乗るのは無理だろう…。
バイクの盗難で、一番厄介なのが相手が少年だった場合だ。少年法の壁で、被害を泣き寝入りするパターンは非常に多い。 おそるおそる「相手が少年だと、名前は教えてもらえないんですよね?」と聞いてみると、 「いや、教えますよ?」と意外な答え。薮ヘビになるのもまずいな、と思ってそれ以上突っ込んで聞くのはやめておく事にする。 「ですが…、少年は盗んだのは自分ではないと供述していて、窃盗ではなく、横領罪という事になります」。 それはまずい。確か賠償に差が出るはずだ。その後、バイクは登録抹消していますか等といった質問がいくつかあった後、 その他にも細かい話もしたいしバイクも見てほしいから、お手数ではあるけれども話を聞きに来てくれないか、と言われたので、 翌日に出向く約束をして電話を切った。

切ったはいいけどオロオロそわそわ動転して、論理的な思考がまとまらない。 そういえば東風荘はどうなったんだろう、マシンはとっくに観戦モードだ。女房に麻雀どうなった?と聞いてみると、 さっきの三色はダマの平和三色ドラ1で出アガり、その後ノミ手キックでトップ終了だったと言う。女房えらい。

とりあえずバイク仲間に電話してみる事にする。ちょっとご無沙汰していたのでネタとしてもちょうどいい。 ざっと経過を話したところで、一緒におおいに憤慨してもらえる事を期待していたのだが、 「相手の障害がひどかったら、勘弁してやれよな」となんだか人間らしい忠告をされて、少しううむと唸ってしまった。 過失割合ゼロの、一方的な被害者は俺だけなんだけどなぁ。 でもその他に、「少年の親が暴力団関係でないかどうか、しっかり確かめておけ」ともアドバイスをもらった。 それは気付かなかった、人の話は聞いてみるもんだ。

電話を切って、まだどうにも気持ちが収まらないので2ちゃんねるのバイク板に行き、 盗難関係のスレッドを読んでテンションを上げると共に情報収集する。やっぱり少年が相手というのは難関だ…。 明日は警察にいくわけで、どういう話をするのかまとめておかなくてはいけない。名前は教えてくれると言うから、 掴みどころのない事態にはならないだろう。バイクは廃車だが、引きとって処分するにも金がかかるな。 事故をした車のほうでは補償はどうなっているんだろう、バイクにはまだ自賠責が残っているんだけど。 そういえば盗難届には、被害金額を10万円と書いてしまった。 1988年式だし、査定としてはそれでも高い額なんだけど(ノーマルならおそらく値段はつかない)、 盗まれる直前に外装をすべて取り換えて(タンクも新品)全塗装して、いろんな消耗部品を換えたばっかりで、 その費用だけでも軽く15万はいってる。補償金額ならもっと欲しいのが正直なところだ…。 そういえば登録してあるバイク盗難情報サイトにも、見つかった報告をしなくちゃなぁ…。

5月19日(日)
次の日、予定どおり○○警察署に出向く。年齢相応に接してもらえるよう、ジャケットを着て行く。 着くと担当の警官に案内されて、地域課のオフィスの中に並設された取り調べ室に座る。 落ち着かないけれど悪い事をしたわけじゃないし、萎縮していると、 開いたドアから覗かれた時になんらかの犯人に見えるだろうなと思って、しゃんとした態度でいるように努めた。
だがまずは車両を見ようという事で駐輪場に向かう。どんな姿になっているのか、会うのがとても辛くなる。 建物の屋上にある駐輪場にはしかし、愛車の姿はなかった。 担当の警官がうっかり忘れていたようなのだが、証拠としてどこかに行っているらしい。 勘ぐりだせば、勝手に処分されてしまったとも考えられるのだが、 追求のしようがないのでとりあえず車両確認はあきらめて、取り調べ室に戻って事件の内容をもう一度説明してもらう事にする。

事故は片側3車線の道路の左車線を少年が走行中、 見通しの悪い道路沿いの駐車場からいきなり左折合流してきた車にもろにぶつかったらしい。 一番左の車線から、中央分離帯まで飛ばされたとの事で、死ななかったのが不思議なぐらいである。 現場の写真も見せてもらったのだが、果たしてそこには屑鉄となった僕のバイクが投げ出されていた。 外装パーツはぼろぼろ、塗色もまったく変わっていたが、リアフレームの形状はまさしく僕のバイクの車種だった。 このフレームで、車体番号が一致するなら僕の物だったバイクに間違いない。 僕のバイクであってほしいような、違ってほしいような、複雑な心境だったのだが、 こうして(写真とはいえ)目の当たりにすると、最後の姿だけでも見せに、よく帰ってきたな、と胸がいっぱいになった。 瞬間、もう補償とかどうでもよくなったのだが、盗難という行為を考えて、気持ちを切り替える。
事故の状況から見ると、完全に車が悪い。だが、少年が無免許だったという事で車はおとがめなしで、 さらに車両の賠償請求もできるらしい。なんとも運命というのは恐ろしいものだ。 少年は入院し、一事は集中治療室に入るほどだったのだが先月退院し、捜査が開始されたのは先に書いたとおり。 ここからやっと僕のバイクの問題に入る。
少年は、バイクを盗んだのは自分ではないと言っているようだ。 直結された状態で自宅付近に放置されていたのを何日か観察した後に乗ってみたらしい。 自分の物でないバイクに勝手に乗れば盗んだ事と一緒じゃないかと思うのだが法律上は違う。 占有離脱物横領罪という事になる。窃盗罪と決定的に違うのは、被害回復の義務がない事なのだ。 言い逃れなんじゃないかとも思ったが、これは事情聴取及び現場の検分で事実という事になってしまっているようで、 今からくつがえすのは難しそうだ。
だが、担当の警官はまったく躊躇せずに少年の名前を僕に教えてくれた。 また、会話の最中に少年の入院していた病院名も口にし、 僕はそれを聞き逃さずにメモしたので、このまま手も足もでなくなる事態は避けられそうだ。 それから喜ぶべき事に、少年の両親は常識的な人間であり、暴力団関係者ではないとの事。 それはよかったのだが…実はこの少年はたちの悪いグループに属しており、警察でもマークしているらしい。 担当警官はその事に触れ、賠償についてのコンタクトを取る事で、逆恨みを持ったグループの仲間から、 嫌がらせを受ける事を心配してくれた。確かに一家の主としてはそれは困る。 しかしこちらの身元を明かさない事には賠償も受けられない。 民事不介入が原則の警察では、問題解決の手助けにはならないだろう…と思ったのだが、 話を聞くとどうも間に入ってくれるようだ。 この少年の事故は現在、地域課と交通捜査課と少年課にまたがって調べられているのだが、 少年課のほうが、少年の両親と示談(?)交渉をしてくれるらしい。 とは言っても弁護士のように書類を用意したり飛びまわってくれるわけではなく、 あくまで僕の意向を相手に伝えてくれるレベルだ。それでも直接話をしないですむのはありがたい。 実際には賠償義務はない事はもちろん警察もわかっていて、しかしそれでも少年の親に賠償額の提示をしてくれるという。 どのぐらいの金額を考えていますか?と聞かれて僕は困ってしまった。前述したが届けには10万円と書いてしまっている。 「書類上には10万と書かれていますが、それはいわゆる下取り価格で僕としては 20万なら気持ちの精算はできますね」と答え、筆記してもらった。それから今後の話になった。 今対応してもらっているのは地域課なのだが、これからは少年課と交通捜査課が担当になるらしく、 それぞれの担当者の名前を教えてもらう。少し遅れるかもしれないがそっちから連絡が入るので待っていてほしいという事。 また、バイクは一応発見され、写真によってだが確認が取れたので、盗難届の取り下げをして、この日は帰宅した。

年が明けて1月12日(日)
現段階で警察からは何も連絡がない。どうもヤラれてしまったらしい。 我ながらボンクラだと思うが人が良すぎたのかもしれない。
今から考えると警察に呼ばれたのは、盗難届の取り下げという一点が目的だったんじゃないだろうか。 現車確認をしなかったのはまずかった。窃盗が占有離脱横領罪になってしまったのはもう覆せないだろうから、 補償についてはかなりあきらめていたけれど、連絡もしてこないような、誠意のなさには腹が立つ。 こちらから電話をかけてもいいんだけれど、どうせ何もしてくれないんだろうな、と思う。

今回の事件で一般人の僕から見て問題なのは
・本人の自白のみで、盗難したのではないという事を事実としてしまうのか
・逆恨み等の問題を発生させずに補償される、犯人との連絡手段はないのか
・結局少年は何でもありなのか
という3点である。大きなところでは、バイクの盗難が軽く見られているという事もあるが、 それについては僕が書かなくてもいいだろう。

現時点でのこちらの手の内は
・少年の氏名(親の名前はわからない)
・少年が入院した病院名(患者の住所は教えないだろう)
・不良グループのおおまかな活動場所
だ。いろいろとやれば、少年の住所もわかると思うが、 わかったところで不良グループの存在があるから迂闊に手を出せない。 こちらには女房もいるし、事が済んで速効で引っ越すというアクロバットができるわけもない。 結局泣き寝入りになるのだろうか。

今日現在、僕はひどく風邪を引いていて体力気力がないんだけれど、近々に警察に電話をしてみようと思う。 それによってどうにかなるんなら、もっと早くどうにかなっていたはずだし、あまり期待はできないんだけど、 けじめをつけるために。

最後に。
僕はプロの犯行と思っていたけれど、どうも違っていたらしい。 最近はその辺の奴らでも、U字ロックやチェーンロックを破壊できるという事なのか。 確かに、そんなに高額な盗難防止製品ではなかったが。
してみると安心できる防犯対策なんてできないんだけど、僕はまだバイクに乗りたいので、 できるだけ有効な方法を探っていきながら、次のバイクを所有しようと思う。

進展があったらまた報告します。心配してくださった皆さん、ありがとうございました。