バッ・・・・バッ・・・バッ・・バッ・ババババババ・・・・・
初めはゆっくり、そして徐々にローターの回転が上がっていくに従い、こちらの気分も高揚してくる。
しばらくジョンが計器やらスロットルやらをちょこちょこ動かしている。
どうやらエンジンもあたたまり、回転も安定してきたらしい。
「レバーをゆっくり引いて、ちょっと浮かしてみようか。」
ジョンに言われ、左手でゆっくりとレバーを引き上げる。
エンジンの回転があがり、機体がふわりと浮き上がる。
おお!飛んだ飛んだ!!
高度数メートルで一旦静止する。
ジョンが、フロントガラスの下部の方を見るように言うので見てみると、何だか2センチ幅ほどの布テープが付けてあって、それがなびいている。
「このテープが横になびいているということは、機体が回転しているということだ。
 ペダルで調整して、テープがなびかない様にして。」
なるほど、確かに言われてみるとゆっくりとだが機体が回転しているようだ。
ペダルを踏み込んでテープが下に垂れるようにする。
「よし、いいぞ。それじゃあ、スティックを少し前に押して前進・・・はい、停めて。次、後ろに引いてバック・・・はい、停めて。じゃ、次は・・・」
と、ジョンに言われるまま、高度数メートルで前に行ったり、後ろに行ったり、横に行ったりする。これが、かない愉しい!
思った通りに機体が滑るように動くというのは、かなりの快感だ。
しばらくあっちこっちに移動させて楽しんでいると、ジョンが、
「それじゃあ、そろそろ高度を上げようか。レバーを引いて。」
と言う。
レバーを引っ張り上げて、青空の下高度を上げて行く。

ババババババ・・・・・

軽快な(実はかなりうるさい)回転音を上げながら、ヘリはぐっと高度を上げて行く。
高度が上がるに従って、どんどん視界が開けてくる。
海も見えて良い眺めだ。
飛行場のまわりはほとんど何もなく、ここなら心おきなくヘリを操縦出来るなあ、と思っていると、
「それじゃあ、あっちに向けて。」
とジョン。彼が指し示す方に向かってみると・・・
えーと・・・ジョン、こっちは街があるよ(汗)
クライストチャーチは、空から見るとさほど大きくなく、ぎゅっと密集した感じがするが、ジョンが指しているのは、まさにその街の最密集地区、私自身クライストチャーチについてから何度もうろついた大聖堂の方向である。
そういえば、インフォメーションセンターで見たチラシにも「遊覧飛行」という文字があったような気がするが・・・遊覧よりも心置きなくヘリ飛ばしたいんですけど。。。
しかも、今更思い出したが、私は多少高所恐怖症の気があるんだった(スカイダイビングの項参照)・・・だったら乗るなよ。。。
そんな事を考えているうちにも、街はドンドン迫って来て、大聖堂はドンドン大きくなり、そして私の鼓動はドンドン早くなる。
ううう・・・もし落っこちたらどうしよう。
自分が操縦しくじって落ちて死ぬのは仕方がないが、こんな街中で落ちたら大惨事だ。。。
うじうじ考えていたら、翌日の新聞の見出しなんかまで頭に浮かんでしまう。
「日本人お気楽観光客操縦のヘリ墜落し、○百人死傷」
日本にいる親が泣くな・・・(後で冷静に考えると、ヘリ1機落ちて何百人も死傷することは多分ない・・・)
そんな事を考えていると、緊張して身体がガチガチになってくる。
し・・・しかし、まあ、隣にインストラクターのジョンがいて、スティックを握ってくれているわけだから、いざとなったら彼が何とかしてくれるし、とジョンの方を見ると・・・
おいコラ、ジョン!腕組して鼻歌歌ってんじゃねぇぇぇ!!!
ここに至って、カチーンと身体が硬直してしまい、大聖堂の上を通過して、ジョンが、
「それじゃあ、右に旋回して」
と言っても腕がさっぱり動かず、仕方なくジョンが旋回させてくれたが、機体が傾いたら身体も一緒に傾けないといけないのに、硬直した体は頑固に地球の重力に対して垂直を保ち、左肩がジョンの右肩にぶつかったが、口まで硬直して謝ることさえ出来やしない。
しかし、足元から街がなくなり、空き地が広がるに従って、身体の緊張はだんだんと解けて行き、何とか手足も普通に動くようになった。
最後はヘリポート上空数メートルまで降りて、もう一度ヘリコプター特有の横滑り動作などを楽しんでから、ゆっくりと着陸。
20分間という話しだったが、多分もうちょっと長かったように思う。
それにしても、自分の気弱さから途中固まってしまったのが残念だったが、他ではまず出来ない体験が出来た。
クライストチャーチに行く人がいたら、是非お勧めしたい。
気持ち良いですよ。


20分間だけの愛機と記念撮影



おしまい