日本代表


2000年2月 マカオ

4年振りのマカオ。
前回来たのは、中国に留学する途上香港に立ち寄った時、1996年のことで、まだ中国に返還される前だった。
ほとんど予備知識を仕入れずに日帰りでマカオに入ったところ、タクシーから降ろされた場所がどこか分からず、道路の表示を見ても、当て字の漢字表記かポルトガル語の表記で全く読めず、とりあえず目に付いたランドマーク的な存在「リスボアホテル」のカジノだけ見て香港に戻った苦い経験を繰り返さぬよう、今回は、その「リスボアホテル」に一泊の予約を入れてのマカオ入りだ。
一泊することにしたのは、夜に行われる「ドッグレース」が見てみたかったからだ。
時間を見計らって、ホテルからタクシーを飛ばす。
ドッグレース場は、正直言って少し古びた印象で、着いた時間が少し早かったのか、当初あまり熱気は感じられなかった。
賭け方がよく分からなかったので、しばらくウロウロしていると、犬券(?)売り場で賭け方の説明をしてくれているようなので、そこに行って少し聞いてみる。
英語だったのではっきりとは分からなかったが、何となく分かった部分で何とか券を買う。複勝の買い方がよく分かっていなくて、売り場のおばちゃんにちょっと怒られたりしたが、何度か券を買ってはレース場でレースを見た。
時間が経つにしたがって、人出も多くなり場内も活気付いて来たが、戦績の方はビギナーズラックも全く無く、出費がかさむ一方で、「もうしばらく観戦してから引き上げようかな」と思い始めた時である。
何だか妙にいらついて喋るフランス語らしき言葉が耳に入って来た。
ふと見ると、目の前にメガネをかけた白人が立っている。そして、気忙しげに携帯電話に向かって何やらべらべらとしゃべっている。
その人物を見るなり、何かが頭に引っ掛かった。
「誰かに似てるなぁ・・・」
誰だっけ・・・おお、そうか!このメガネ、真中からふんわりと左右に分かれたこの髪形、そして、この神経質そうな早口の喋り方(失礼!)。サッカー日本代表のフィリップ・トルシエ監督にそっくりではないか!?
うーん、そっくりさん大賞に出ていただきたいくらいに似ているが、それにしても妙な格好をしている。
ただでさえ、白人さんは目立つシュチエーションだというのに、何だか真っ黒な化学繊維製(?)のコートを着ているので余計に目立つ。胸のところに何やら3文字のアルファベットが書いてある。何だろ?ブランド名か?
え・・・と・・・・J・・・F・・・A・・・・・・・・・・
ホンマモンやんけ!!!
というわけで、フィリップ・トルシエその人でした。
そーいえば、何か今マカオの方で大会(アジア大会?)やっているとかスポーツニュースで言いよった気がする(この当時のサッカーに対する興味はこの程度・・・今も対して変わってないが)。
「それにしても、この人一人で、こんな所で何しよるねん?」
と思っていたら、何人かスタッフらしき人が寄って行っている。
「ん?一人じゃないのか?」
と、違う方向を見てみると・・・
おお!川口がいる!!
川口の周りには名前がはっきり分からん若手が何人かいる。反対側を見てみると・・・
あ!カズもいる!!
なんだ、ほとんど皆いるんじゃないか。あれ?そう言えばゴン中山の姿が見えない。他の選手の事はよく知らないが、実はゴンは結構好きなんである。あのキャラクターが。ゴンはどこじゃ、ゴンは・・・とキョロキョロしていると・・・
遠くの方で1人たたずむゴン発見!
なんで1人ぽつんとたたずんどるんだ?友達いないのか?大きなお世話だろうが、ちょっと心配してしまった。
試合から離れた選手達は、結構リラックスした表情でレースを楽しんでいる。
ふと振り向くと、カズとゴンが、スタンドの椅子席最前列に大股開きで陣取って談笑している。良かった、どうやらゴンも友達がいないわけではないようだ(だから、大きなお世話だって・・・)。
そうこうしている内に、レースコースのすぐ横にある何やら壇になっているところの入口が開けられ、ゴンを始め数人の選手が中に招き入れられた。何の説明もなかったようで、選手達も何が始まるのか怪訝そうな顔をしていたが、どうやらマカオ(中国?)のお偉いさんがいたようで、その人を囲んでの記念撮影が始まる。ゴン中山選手も「あ、こういうことね」と言いながら、笑顔で応えていた。それにしても残念なのは、犬が走っているのを撮っても、あまり面白くないし、ストロボが光ったりするとレースの邪魔になるかも知れないと思い、カメラを持って来なかったことだ。こんなアップで日本代表の選手達を撮れる機会など2度とないだろうに・・・まあ、仕方がない。
写真撮影大会が終わり、選手たちはそのまま壇上で観戦している。どうやらそのレースの犬券(?)を買っていたようで、結構皆熱が入っている。
先頭の犬がゴールした瞬間、
「ぃよっしゃーーーー!」
とゴンが叫んだ。どうやら取ったらしい。ちょっと、確定の表示が出るのが遅れたので、少し心配そうにしていたが、結局変更無しの結果が表示され、再度
「ぃよっしゃーーーー!」
の声と共にガッツポーズ連発。
まさか、マカオのドッグレース場で、ゴン中山のガッツポーズが拝めるとは夢にも思ってなかった。欲を言えば、試合でゴールを決めた時のガッツポーズを見たかったところだが、この際贅沢は言うまい。どうせ試合は見に行かんのだし・・・
気が付くと、ゴンが1人皆から離れて行く。どうやら引き換え場の方に行くようだ。面白そうだから、付いて行ってみた(こらこら・・・)
1人引き換え窓口に行ったゴン中山選手だったが、窓口が「香港ドル」と「マカオパタカ」に分かれているのを知らなかったらしく、香港ドルで買った券をマカオパタカの窓口に持って行ってしまったようで、窓口のおばちゃんに何やら強い口調で「あっちに行け」というような事を言われて、少しポカンとしていたようだが、別の窓口に行って、無事換金して貰えたようだ。
全く予期していなかった事だったので、ドッグレースでもカジノでも負けたが、全体的に得した気分のマカオの夜だった。



おしまい