サイン


あれは私が小学校の5年生の時だったと思う。
未だに人気を博している「特撮戦隊モノ」の第1弾、「秘密戦隊ゴレンジャー」のロケが松山で行われた。
しかも、私が掴んだ情報では、ゴレンジャーの皆さん方は我が家から歩いて10分ほどの所に有る「ニューダイヤモンドホテル」に泊まると言う。今では様変わりして、建物は温泉を利用した療養所になってしまっているが、当時はまだ築後数年しか経っておらず、最上階の屋根に取り付けられたホテル名の周りの電球が「バチバチ」と輝くおしゃれな(?)ホテルだった。
そうと聞いては居ても立ってもいられない。ヒーローモノが大好きだった私は、あわよくばサインでも貰えるかと、手近にあった新品のノートを持って「ニューダイヤモンドホテル」へと向かった。

さすがにその手の話は広まっていたようで、ホテルの前にはよく知っている上級生やら顔だけ知ってる同級生やらどこの誰か見た事もない奴やらが、既に集まっていた。
とは言うものの、ここで撮影をするわけではないので、そこにずっと突っ立っていても始まらない。そもそも本当にここにゴレンジャーが泊まっているのか?
ワイワイやっていると、誰かが駐車場にゴレンジャーが乗るバイクやサイドカーが有ると言う。皆でゾロゾロ行ってみると、確かにあった!テレビで見て憧れていたバイクやサイドカーが目の前にある。と言う事は、ゴレンジャーの皆さんはホテルにいるな(今考えると、必ずしもそうは言い切れんかったような気もするが、子供は短絡的に考える)。皆でゾロゾロとホテル前に戻る。流石に子供であった我々に「ホテル」という存在は身近なものではなく、誰も中に入って行こうとはせず、自然ホテル前でたむろする形になる。
うだうだしていると、中からホテルの従業員らしきおっちゃんが出て来た。ホテル側としても、入口の前で小学生にたむろされては迷惑だったのだろう。子供達から、
「おじさーん、ゴレンジャーは?」
と聞かれると、
「ゴレンジャーは疲れて寝ちゃってるよ。待ってても出て来ないよ。」
というようの事を言っていた様に思うが、はっきり言って良くは覚えていない。ただ、どうした訳か誰かが、
「おじさーん、じゃあモモレンジャーは?」
と聞いたとき、そのおっちゃんが、
「モモレンジャーは今お風呂に入ってる。」
と言い切ったのだけは、鮮明に覚えている。全く罪なおっちゃんである。もしかしたら、あの内の何人かは、その一言で目覚めちゃったかも知れない。
とにかく、しばらく子供達の相手をしてくれていたおっちゃんもホテル内に戻り、集まっていた子供達の中にも諦めムードが広がって来て、1人2人と帰って行った。その内、誰かがキレンジャーが喫茶店でお茶を飲んでいると言ったので外から喫茶室を覗きに行ったが、いたのは2代目キレンジャーだった。いや、別に2代目だから悪いと言う訳では決してないのだけれど、実は愛媛は東京などよりも放映が遅れていて、まだ放送に2代目が登場していなかったのである。と言う訳で、自然テンションはあまり上がらず、また何人かが帰った。
既に皆が集まってから何時間が経っただろうか?それでも、多分私を始め7、8人は残っていたと思う。
突然、ホテルの自動ドアが開いた。そして、アカレンジャー役の俳優さんが現れたのだ!
アカレンジャーは、我々に近づいて来ると、我々が差し出す帽子やノートにサインしてくれると颯爽とホテルの中に戻って行った。
で、先ほどから俳優さんとかアカレンジャーとか言っているので気が付かれているかも知れないが、実は私はその俳優さんの名前を知らなかったのである。アオレンジャーを演じていた宮内 洋さんは「仮面ライダーV3」をやっておられた時にサインをいただいており名前も覚えていたが、その当時名前を覚えていた俳優さんというと他は藤岡 弘さんくらいだった。
いただいたアカレンジャーのサインは当時何と書いているか判別がつかず、「サインって言うのはぐちゃぐちゃに書くものだ」と勝手に思いこんでいた。

さて、話は一気に10年ほど飛ぶ。
高校卒業後実家から出て1人暮しをしていた私は、いつだったか帰省したときに、押入れの中の古い荷物を整理するように言われ、ぼちぼちと片付けていた。小学校の頃使っていたと思われる教科書やらノートを整理していた時のことである。
1冊のノートをパラパラとめくってみたが、全く書いている部分が無い。新品で勿体無いけど、古くて今更使い物にならない。しかも、罫線タイプではなく今じゃ滅多に使わない方眼タイプである。「捨ててしまうか」と思いながら尚もパラパラやっていると、何やら書いているページに行き当たった。
「おお!こ・・・これは!?」
いつの頃からか行方がわからなくなっていたアカレンジャーのサインが、そこにあった。しかも、以前は何と書いてあるか分からなかった文字が実はそれほど崩されている訳じゃないという事も、その時気が付いた。
で、読んでみる。「誠実」の「誠」に「直角」の「直」、そして「也」と・・・誠 直也さんかぁ・・・ん?誠 直也ぁ?
誠 直也さんと言えば「特捜最前線」などに出ていて、今やサスペンスの犯人からホームドラマのお父さんまでこなす俳優さんではありませんか。しかも結構好きな俳優さんだと言うのに、誠さんがあの時のアカレンジャーだったとは、全く忘れてしまっていた私でした。・・・失礼な話です(汗)。
で、結局何が言いたいのかというと・・・
皆さん、誠 直也さんは良い人です。
応援しましょう!



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