冥界問答


アッカド語版『ギルガメシュ叙事詩』の物語は第十一の書版で完結するが、第十二の書版には、これに全く連続していないエピソードが記されている。
話は、「プック」「メック」と呼ばれる木製品を冥界に落としたギルガメシュが嘆いているところから始まる。そこへエンキドゥがやってきて、それらを取り返してこようと提案する。ギルガメシュはいくつかの忠告をして彼を送り出したが、彼はそれを聞かず、冥界に捕らえられてしまう。ギルガメシュはエンリルとシン神に願うが応えてもらえず、エア神に申し出ると、冥界に穴をあけよと教えられる。ギルガメシュがそのとおりにすると、穴からエンキドゥの死霊が立ち上ってくる。ギルガメシュとエンキドゥの霊の間で冥界の情景に関する問答が続き、その途中で急に終わってしまう。

この話は、もとシュメール語で記された『ギルガメシュ、エンキドゥ、冥界』という作品の後半部分のほぼ正確なアッカド語訳。しかし、それも途中までしかなされていない。
書版本文はこういう文で終わっている。

「その霊が供養を受けないものを見たか」
「見ました。彼は器からこそぎ落とした物や通りに投げ捨てられたパンのかけらを食べていました」

第十一の書版までで、物語はギルガメシュの不死の生命の探求とその失敗を語ってきたが、死後については語っていない。人は死後どうなるのか・・・この書版の作者は、それに答えを出すため、また死者供養の重要さを伝えるために、物語と関係ないシュメール語テクストの一部を訳出してここに加えたものだろうとされている。



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