国歌を聴く〜EU15カ国


オリンピックやワールドカップなどで流れる国歌の演奏。メロディーは解るが何と言ってるか解らない。これはどうにも気になってしょうがない。とはいっても、CDを探してもせいぜい吹奏楽版や、かろうじてベルリオーズ編曲の「ラ・マルセイエーズ」があるくらいで、いかんともしがたい。と思ってたら、ONDINEレーベルから、EU加盟15カ国の国歌集が原語歌唱で出たではないですか。コーラスはフィンランドのタピオラ合唱団が担当。少年・少女の合唱団のため、勇壮さより清澄さが前に出ている。ラ・マルセイエーズなんか微笑ましい感じだ。でも、さすがに名曲ぞろいで、買って損はない代物だ。

2002年ワールドカップの前に、出場国の国歌集が出ないかなあ・・・特にチリ。サモラーノがあれほど絶唱するチリ国歌とはどんなのか?

曲解説は、ブックレット、或いは海外の国歌集サイトを参照しています。


1.フィンランド共和国 「マーンメ」

まずは合唱団の本拠スオミ(フィンランド)の国歌から。
もとはスウェーデン語の詩「我が祖国」に曲がついたものだったが、パーヴォ・カヤンデルによって歌詞がフィンランド語に訳されてから広く普及し、1917年の独立に際して国歌となった。北国の自然と祖国愛を歌う。
ミカ・ハッキネンのファンはこれを聴いて覚えて、鈴鹿で歌うべし。と最初に書いてたんだけど、2002年からはキミ・ライコネンだな・・・

フィンランド第二の国歌ともいえる「フィンランディア讃歌」は、シベリウスの交響詩「フィンランディア」の中間部の美しい旋律にV.A.コスケンニエミが詩をつけたもので、ロシアから演奏禁止命令が出されたほどの愛国心に満ち溢れた力強い歌。
パーヴォ・カヤンデルの詩にシベリウスが男声合唱用に作曲した「祖国に」という曲も、力強く感動的。

2.ポルトガル共和国 「ア・ポルチュゲーザ」

1891年、時の君主制に対抗していた共和主義政党の支持者を鼓舞するために作られ、共和派の勝利と共に国歌として採択された。
「祖国のため、武器をとりて進め!」とサビで連呼する、イタリアふうの勇ましい歌。
フィーゴやルイ・コスタのファンは覚えろ。「アル・アールメシュ!」

3.フランス共和国 「ラ・マルセイエーズ」

元軍歌。「武器を取れ!」とか、「彼らの不浄な血を我等の畠に吸わせよ!」とかいった歌詞をもつ、やや血なまぐさいながらも勇壮この上ない歌。1792年、フランスとオーストリアの戦争のさなか作られた。
ベルリオーズは1830年、この曲にオーケストラ編曲を行っている。そののち、1879年に国歌として制定された。
しかし、ニューカレドニアなどのフランス領の出身者には、絶対にこの歌を歌わないという人もいる。先年のフランス・ワールドカップでも、フランス代表にそういう選手がいて国内で大いに物議をかもしたことがあった。

4.スウェーデン王国 「古き自由な北国」

スウェーデンに伝わる古い民謡にリッカード・ディーベックが詩をつけたものが原型。正式な国歌ではないが、国民に愛され、定着している。スウェーデンの大地と民を歌い上げている。
子守歌を思わせるやさしい旋律。

5.ベルギー王国 「ブラバントの歌」

行進曲風の旋律にのせ、国と王への忠誠を誓う。
ブリュッセルのモネー歌劇場の歌手によって作られたので、ややイタリア入っている感じだ。

6.スペイン 「王の行進」

通常、器楽合奏のみで演奏され、このCDでもそれを踏襲している(ブックレットに歌詞は記載されている)。
まあ、スペインも民族問題を抱える国だから・・・バスク地方とか。スペイン代表も、イギリスみたいにカタルーニャ代表とかバスク代表とか分割したほうが絶対強いと思うんだけど。あ、サッカーの話ね。

7.デンマーク王国 「愛する国」

清澄な響きの美しい国歌。
「われらが愛する国、ぶなの木の緑に飾られ、大海が周りを囲み、丘と谷とに富むところ。
その古き国の名はデンマーク、フレイア女神の住処なり・・・」
後続の節では古代の男性の勇壮さ、女性の優しさを歌う。

8.ギリシア共和国 「するどき刃に」

ギリシア独立戦争のさなか作り上げられた。戦争の悲惨さと、自由への願いを歌い上げたもの。
ギリシア語の語感のせいか、結構ノリがいい印象。

9.イタリア共和国 「イタリアの同胞」

いかにもイタリア〜ンな旋律。朗々と声を張り上げて歌うには格好の歌だ。
作詞者の名をとり、通常「マメリの賛歌」といわれる。
「イタリアの兄弟よ、イタリアは目覚めた、
スキピオの兜を頭に戴き。
勝利はいずこにありや?
その長き髪を捧げよ、
神の造りたもうたローマのしもべよ!・・・」
アズーリ好きなら彼らと一緒に歌え!
W杯制覇なるか。

10.アイルランド 「兵士の歌」

かつては「聖者と学者の島」と呼ばれた美しき地だったが、イングランドに散々踏みつけにされ、その後遺症により今では「旅行するにはちょっと危ないかも」とかいわれてしまう国。国歌も、旋律はきれいなのに、
「砲声と銃声と咆えたけるなか、
われら歌わん、兵士の歌を」
なんて歌詞で、思わず「大変ですね・・・」とか言ってしまいそうになる。

11.オランダ王国 「ウィルヘルムス」

ウィルヘルムスとは、オランダの独立のために80年戦争を戦ったオラニエ公ウィレム(1世、沈黙公)のこと。全15節の歌で、ウィレム・ファン・ナッサウの戦いの歴史を綴っている。
「ウィレム・ファン・ナッサウ、われはドイツの胤、祖国に誠尽くさん、わが死に至るまで。
オラニエ公たるわれは自由にして無畏、イスパニアの君に敬を忘れることなし・・・」
というふうにオラニエ公のひとり語りの形式をとり、通常第1節と第6節(オラニエ公の神への祈り)が歌われる。
各節の頭の文字をつなげると、“Willem van Nassov”となる言葉遊びが隠されている。
ゴッド・セイブ・ザ・クイーンを勇ましくしたような感じで、私は好きです。

12.ルクセンブルク大公国 「われらがふるさと」

この国の国歌をまともに聴いたのはこれが初めて。オリンピックでもまず聴けないでしょう。
でも、この国は、昔は普仏戦争のきっかけとなったり、今ではEU議会および銀行、NATO軍司令部なんかがあってかなり重要だったりする。もとはオランダ王家であるオラニエ・ナッサウ家の土地だった。
ルクセンブルクの美しい風景、希望、自由と平和を祝う、穏やかで心にしみる曲。

13.グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国 「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」

小学生でも作れそうな極めて単純な旋律なのに、この美しさと気高さはいったいどこから湧き出てくるのか。これだけの曲なのに作詞・作曲者は不明。さすが、ミューズの訪れる地(“ルール・ブリタニア”第4節)、名もなき人にも霊感は備わっているようだ。
神に女王、もしくは王の加護を祈る歌。男王の場合は、歌詞の中のQueenがKingに、Send her が Send him になる。
あと、プロムスのラスト・ナイト・コンサートでお馴染みの「ルール・ブリタニア」も、国民的な歌といえるかも。こちらは、元曲はトマス・アーンの仮面劇「アルフレッド」の終曲、大ブリテン島への頌歌。こいつの録音はマギーガン指揮でドイツ・ハルモニア・ムンディから出てます。サー・マルコム・サージェント編曲のものとは違うバロックな響きもいい。

14.オーストリア共和国 「オーストリア共和国国歌」

旋律は、W.A.モーツァルトの作曲したフリーメーソンのための合唱曲「固く手を握りしめて」K.623aを用いる(真作かどうかは明瞭でないそうだが)。といっても、オーストリアがフリーメーソンたちの国というわけではなく(多分)、19世紀からこの旋律に適当な詩を当てはめて歌う事がよく行われており、これに従ったもの。それはともかく、音楽に歌詞がぴたりとはまっている、本当に美しい歌。
元曲を聴きたい人は、モーツァルトがフリーメーソンのために作った作品集のCDを買うべし。何種類かあります。なかなかいいっすよ。私はケルテス指揮のやつを持ってます。

15.ドイツ連邦共和国 「ドイツ国歌」

旋律はJ.ハイドンの「皇帝讃歌」。彼の弦楽四重奏曲「皇帝」の第2楽章にも使用されているもの。のち1841年に「世界に冠たるドイツ」として知られる詩がつけられ、1922年にドイツ国歌に制定された。
現在は「統一、正義、自由を父なる国ドイツに・・・」で始まる第3節のみが歌われる。
1989年12月9日、「ドイツ民主共和国(東ドイツ)が国境を解放した」との報を知らされたボンの連邦議会では、議員が一斉に立ち上がって泣きながらこの第3節を合唱したという。
ちなみに第1節は、「マース川からメーメル川、エチュからバルト海までうちらの領土やで〜」とか歌ってる。
第2節は、「わしんとこのワインや女は素晴らしいけえのう」とか歌っている。

16.EU讃歌 「喜びよ、美しき神々の火花よ」

最後に、ベートーフェンの第九でおなじみのシラーの詩「歓喜に寄す」。これが1972年に選ばれたヨーロッパ讃歌。旋律は第九の例のやつ。この録音では、最後にフィンランド語訳詩で歌われている。


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