ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
レクイエム K.626


名曲というものはどうも「これは面白そうだ」「こいつはどういう演奏しとるんやろ」というわけでついついCDを増やしてしまうものだが(ですよね)、その中の一つがこいつだ。このたびちょっと駆け足で聴いてみた。


1.カール・リヒター盤

バッハでおなじみの手法そのままに演奏している。これがめちゃんこかーっくいー、のだ。独唱者もいいし、ミュンヘン・バッハの面々も万全。キリエ・フーガなんてカッコ良すぎ。録音が1960年頃ということは、あの「マタイ」のちょっと後。演奏の内容はそれで解るでしょう。

リヒターはブルックナーやワーグナーも得意としていたそうだ。録音はないのか?私は、バッハ以外ではかろうじてヘンデルの《サムソン》を持っていますが、やはりいい。ああ、あと同じくヘンデルのオルガン協奏曲集もあった。


2.ジョルディ・サバール盤

流麗に歌うと見せかけて、ディエス・イレなどは実質1分36秒でぶっ飛ばすラテン野郎たちの演奏。合唱・オケは小編成でキレイ。ソプラノ・ソロのサバールの奥さんの声はちょっと好みではないが、まずはグッドな盤だ。


3.ジョン・エリオット・ガーディナー盤

CDより、LDで出てるバルセロナ・ライヴのほうが凄い演奏だ。モンテヴェルディ合唱団、EBSともにライヴのほうがいい演奏をする。ガーディナーのヒョコヒョコしたへんな指揮ぶりも楽しい。


4.フィリップ・ヘレヴェッヘ盤

とにかくきれい。葬式に流すなら、これだ。


5.ウィリアム・クリスティ盤

クリスティらしくきっちりと整えられたアンサンブル。遅い曲と速い曲のコントラストが明確。風通しが良く、非常に明るい印象。ソリストがちょっと。クリスティは、ソリストに若手を使うのが好きなんすね。それにしても、レザール・フロリサンのコーラスのテノールの音色は妙に軽くていつも気になる。


6.ジャン・クロード・マルゴワール盤

アルトがドミニク・ヴィスじゃん、というだけで買った。どっかから変声期前のガキを連れてきて歌わせた、そんな声だった。チョイ役であんまりやる気なかったと推測。演奏についてはどうということはないが、クセ者マルゴワールだけに、キリエのラストの処理などは独特。もっとも、最近はこういう解釈もよくみられるようになったが。

マルカントワーヌ・シャルパンティエの「テ・デウム」を併録。


7.フランス・ブリュッヘン盤

日本でのライヴ録音盤。その模様をNHKで見たけど、ブリュッヘンは「コイツ大丈夫か!?」と思わざるを得ないイッてる(顔とか)指揮ぶりだった。あのせいで、薬やってるって噂、納得してしまったぞ。


8.ジョージ・セル盤

見た感じ海賊版CD。1968年クリーヴランド、手兵を率いてのライヴ。ソロはヘッタクソなのだが、オケと合唱は気合入っている。合唱団名は表記がないが、各パートの音色が非常に揃っていて、録音状況が悪いながら聴いてて嫌悪感無し。ディエス・イレは速いぞー、1分39秒。パーフェクトアンサンブル・クリーヴランドの本領発揮だ。

併録は、ワルター指揮ニューヨーク・フィルでゼーフリートがソロの「エクスルターテ・ユビラーテ」。1953カーネギーホールでのライヴ。


9.ペーター・ノイマン盤

こういう演奏を聴くと、ほっとする。モンタギュー、チャンス、プレガルディエン、ゼーリヒとソリストは粒ぞろい、ケルン室内合唱団は清澄で暖かい響き、コレギウム・カルトゥジアヌムは激しい曲でも荒れ狂うことなくこれをきっちりサポート。買って安心の一枚。

ノイマンは、最近はダブリングハウス・ウント・グリム(MD+Gエムデー・ウント・ゲー)からヘンデルのオラトリオなどを出しているが、相変わらず水準は高い。


10.フリーダー・ベルニウス盤

1999年12月11日のライヴ。ベルニウスらしく、奇をてらわない手堅い演奏。手堅いけれど、決めるところはしっかり決めていて感動を呼ぶ。
ここぞというところのティンパニの強打が印象的。ディエス・イレの最初でトランペットが一瞬入りそこなって遅れるのもご愛嬌?
フランツ・バイヤー版。


その他:

*ヘルマン・シェルヘン盤

遅いが、シェルヘンらしく律義なアンサンブルを貫いているため、そのうち慣れる。でもディエス・イレはぶっ飛ばすけど。合唱とオケがもっとよければねえ。

*トン・コープマン盤

ティンパニと管楽器がうるさい。録音のせいかミキシングのせいかわからんが、バランスでかすぎで曲を聴くどころではない。

*ヘルムート・リリング盤

ロバート・レヴィン版。ジュスマイヤー版をよりモーツァルトらしくアレンジ、らしい。アーメン・フーガあり。
キリエ ニ短調 K.341(368a)併録。レヴィン版初録音ということでわかりやすさを目指したのか、とくにどうということもない演奏。

*クリストファー・ホグウッド盤

C.R.F.モーンダー版。ジュスマイヤー作のサンクトゥスとベネディクトゥスはカット、ラクリモーサの後半を大胆に改変、アーメン・フーガを含む。
ソリストはいいが、ウェストミンスター大聖堂少年聖歌隊がうーん、ちょっと。

*ロジャー・ノリントン盤

「濃い」ダンカン・ドルース版。ノリントンはいつもどおりのエキセントリックぶり。キリエの攻撃的精神は特筆ものだ。
D.ドルース版はしつこい。ラクリモーサは特に。

*イシュトヴァン・ケルテス盤

初めてこの曲を買ったのがこの盤。ウィーン・フィルを駆使していてかっこいいが、合唱(国立歌劇場合唱)がさすがに粗い。おどろおどろしいのだ。

*ニコラウス・アーノンクール盤

ジュスマイヤー版の作曲技法上の誤りを修正したフランツ・バイヤー版を採用。
フレージングにクセのある演奏。ウィーン国立歌劇場合唱団が四苦八苦。ていうか、CMVにこの合唱は合わない。アルノルト・シェーンベルク合唱団だったらもっといいだろうに。

*ブルーノ・ワルター盤

今となっては、遅くて、合唱も粗くて、聴かなくなってしまった。

*ゲオルク・ショルティ盤

H.C.ロビンズ・ランドン版。アイブラー、フライシュテートラーの補筆とジュスマイヤー版のミックス。
没後200年記念の典礼ミサのライヴ。まあ、なんでショルティになったんでしょうか。

*オイゲン・ヨッフム盤

1955年12月2日に収録された、命日ミサ典礼の録音。アニバーサリーでも命日でもないじゃん。レコード発売が次の年の12月5日だったとか?

*ヘルベルト・フォン・カラヤン盤

ウィーン・フィルと楽友協会合唱団による。さすが、手堅い。ソロはちょっと、だが。

*ヨス・ファン・フェルトホーフェン盤

オランダ・バッハ協会を率いての真摯な演奏。いいっすね。
ジュスマイヤー/フロスワス版使用。
このコンビの大バッハ・マタイ受難曲のCDは評価高し。


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