J.S.バッハ「マルコ受難曲」


 大バッハは生涯に5曲の受難曲を作曲したといわれていて、台本、音楽ともに現存するのはマタイ、ヨハネの二作品。ルカ受難曲は他人(作者不明)の作品にバッハが一部手を加えたもので、マルコ受難曲は台本のみ残って楽譜は発見されていない。しかし、この曲を何とか復元しようとする試みは当然あり、いくつかの版やその録音も存在する。これを聴き比べるのがまた楽しい。

◇ジョフリー・ウェバー指揮/ケンブリッジ・ゴンヴィル・アンド・カイアス・カレッジ合唱団、ケンブリッジ・バロック・カメラータ
(ASV)

この版のコンセプトは明快。アリア、コラールはバッハ、レチタティーヴォとトゥルバ(群衆)はラインハルト・カイザー(カイザー・ラインハルトと混同なきよう)作曲のマルコ受難曲を使用。もう少し遊びがあってもいいんでは、と思う。
カイザーのマルコ受難曲は、アコール・レーベルから出てます。(ミシェル・ラプレニー指揮パルルマン・ド・ミュジーク、アンサンブル・ヴォーカル・サジタリュス)

◇ロイ・グッドマン指揮/フィンランド・リング・アンサンブル、ヨーロッパ・ユニオン・バロック管
(ムジカ・オスクラ)

サイモン・ヘイズ復元版。基本的にラインハルト・カイザー作曲のマルコ受難曲を下敷きとし、カンタータ第198番「侯妃よ、さらに一条の光を」やクリスマス・オラトリオの曲を積極的に盛り込んでいる。とくにクリスマス・オラトリオの影響で非常に明るい受難曲。「十字架につけろ!」の合唱が「天のいと高きところには神に栄光」の節で歌われた日には、もう、すごく楽しそう。
コナー・バロウズがソプラノ・ソロを担当している。

◇トン・コープマン指揮/アムステルダム・バロック管・合唱団
(エラート)

コープマン自身の復元。通説を容れず、レチタティーヴォにいたるまで全曲を新しく復元している。一言で言うなら「カンタータごった煮」。たとえば、「祭りの間はよからず」にはカンタータ第24番から「汝らの望むすべてのことを」、「十字架につけろ」にはカンタータ第4番から「ハレルヤ」のフーガ部分を使用している。詳しくは、国内盤に対比表があるので、それを見てください。それは楽しいが、やはりレチタティーヴォがいまいちしっくりこない。アリアや合唱との連結が唐突な感じ。台本に無い、ヨハネ受難曲の異稿(第2版)アリアを挿入するのもどんなもんか。個人的には、もう一回校訂して欲しい感じ。演奏自体はいい。

戻る