死神遊戯の契約者 -Green- セブンデイズ・ゲーム
(KKベストセラーズ)

「セブンデイズ・ゲーム」は、デスゲーム系のライトノベルです。
出版はKKベストセラーズ。

ずっとゲームのシナリオを中心に仕事をしてきましたが、今回、思いがけず小説を出版する機会に恵まれました。
「φなる・あぷろーち」のノベライズあとがきでも書きましたが、「作家になりたい」というのは学生時代からの夢でしたから、本当にありがたい話です。
ただ、そこに至るまでは、ずいぶんな紆余曲折がありました。

そもそもは、Kindle Direct Publishingのサービス開始を聞いて、興味を持ったのがきっかけだったと言えるでしょうか。
電子書籍の普及は時間の問題でしょうし、スマホがプラットフォームになるということは潜在的なユーザー数は膨大なはずなので、やってみる価値はあるんじゃないかな、と。
それ専業で食べていけるほど甘いものではないでしょうが、ちょっとした小遣い稼ぎにでもなってくれるなら、かなりありがたいんだけどなぁ…と願望こみで思ってました。
なんと言っても、自分の好きなものを書けるんですからね。
で、暇を見て原稿を用意し、公開の準備に入ったんですが、そこで直面した課題が「表紙、どうしよっかなー」でした。
正直なところ、イラストは、そりゃ欲しいに決まってますけど、厳しいだろうと思ってました。
あいにく私は絵心がないので、イラストを用意しようと思えば誰かに頼まなければいけない。
でも、KDPでの出版自体、海のものとも山のものともつかない状態でしたから、そこで発表する作品のイラストというのが、仕事の依頼として成立するのかどうか疑問です。
仮にお引き受けいただけたとしても、売り上げがそれほど見こめるものでもありませんから、予算もそれほど潤沢には用意できません。
ただ、イラストがつく・つかないで目の引き方が全然違うのは言うまでもないことです。
実験的な試みであるにせよ、どうせ発表するなら少しでも良いものにしたいし、せっかくだから少しでも多くの人に読んでほしい。
で、まぁ、今になって振り返っても汗顔の至りですが、ダメ元と言うか、九分九厘断られる覚悟で、以前「夢のつばさ」や「トライアル・トライアングル」でお世話になった成瀬さんにお願いしてみたんです。
「これこれこーいうことをやろうと思ってます、無茶は重々承知なんですが、もしお手すきでしたら、表紙と挿絵2点で十分ですんで描いてくださいませんか」と。
そしたら、ありがたいことにご快諾いただきまして。
めでたくイラストがつくことになりました。
(しかも、納品に当たっては「2点じゃ物足りないでしょう」と、挿絵を1点サービスまでしてくださいました。
あのときは後光が射して見えましたよ。(笑))
とはいえ、事情が事情ですから、お仕事の合間に少しずつ作業を進めていただくのが精いっぱい。
さらに、ラフの段階で修正をお願いしたこともあって、初夏の予定が盛夏となり、そうなればコミケの準備が優先されるのはやむを得ないことで、イラストをいただいたのは残暑の厳しい頃だったと記憶しています。
…が、そうこうする間に、今度は私のほうで発表を見合わせなければならない事情が発生して、原稿とイラストが揃った状態で初冬まで寝かせることになりました。(^^;
そんなこんなでようやく公開したときのタイトルは「セブンティーン・ゴースト」でしたね。

で、公開当日、「はー、やれやれ、公開したはいいけど、DL数はどのくらい期待できるのかなぁ」とか思いつつ顔を出した某所の忘年会で、「φ」のノベライズでお世話になった編集さんと再会したんです。
後から思えば、これが実に絶妙のタイミングでした。
「良かったら読んでください」と軽い気持ちで売りこんでおきましたが、そのときは「セブン」そのものを商業化する運びになるとは夢にも思わず、DL数を1つ稼げれば十分、そんでもってなにかの機会につなげられればいいなーという、淡い期待とすら言えないぼんやりした思いを持っていたに過ぎません。
ところが数日後、「書籍化を検討してみたいので原稿を見せてもらえませんか」とご連絡いただきました。
そのときはぶっちゃけ、「いや〜、またまたそんなご冗談を、私は騙されませんよ」という、かわいげのないことを考えてました。(笑)
しかし、原稿を送ってほどなく「社内的な企画決済は、通しちゃいました〜」とのメールをいただいて、パソコンの前で奇声を上げることになります。
…これは私の推測ですけど。
編集さんの心を掴み、かつ企画決済を通すに当たって物を言ったのは、成瀬さんが描いてくださった死神のイラストだったんじゃないかと思ってます。
少なくとも私だったら、あのイラストが表紙になった本を書店で見かけたら、「あ、どんな内容だろう」と興味を引かれ、手に取ったはずですから。

ともあれ、「は? え? いや…マジで?」と半信半疑…いや、二信八疑くらいの気持ちながら、万一本当だったらこんなありがたい話はないわけで、「信じるなよ、信じるなよ、そんなうまい話があるわけないんだから」と自分に言い聞かせつつ、編集さんと共に冬コミ会場に出向いて成瀬さんにご挨拶をし、ついでに某所のカフェで最初の打ち合わせに臨みました。
そのとき印象に残ったのは、なんと言っても、冒頭の何気ない記述についてのツッコミですね。
「セブン」では、ネズミが事件で失う思い人が「いとこ」と書かれてますが、これ、最初は「義理の妹」だったんです。
お話の都合上、ネズミには自殺を決意してもらわなければならず、そのためには相当な絶望を抱いてもらわなければならない。
で、家族を失い、かつ好きな女の子まで失う、それを一手で解決する手段として、親が再婚した際にできた義理の妹が好きだ…と設定しました。
これに編集部からNGが出たんです。
「主人公が妹を好きだということにすると、読者層が限定されてしまうかもしれない」とのことでした。
ラブコメ界隈では「妹が好き」なんて、むしろ基本と言っていいはずの設定ですし、義理の妹なら法的、倫理的な問題がない分、おとなしいくらいです。
そう、私からすれば「何気ない記述」に過ぎなかったんです。
ところが、そっちに染まってない人の目には、それがすごく特異な設定と映るらしい。
いやー、これはもう、「文化が違う!」って感じでしたね。(笑)
確かに、作品の内容的にいわゆるハーレムもののラノベではありませんから、兄はシスコン、妹はブラコンというお約束を持ちこむ必要もないんでしょう。
しかし、この指摘には自分の「常識」がいかに偏ったものかを思い知らされた気分でした。(^^;
特にその点に関するこだわりはなかったので、修正を施すことに異論はなかったんですが、ここ数年で一番の衝撃だったと言ってもいいかもしれません。

ちなみに、この時点で実は「エイト」の原稿もまとまってました。
打ち合わせのなかでも、「バイト」に関する設定についての話になり、その途中で「バイト」側を主人公とした別作も書いたんですよ〜、的なことは口にしたわけですが…。
その原稿を見せることには、だいぶ躊躇しました。
そりゃぁ、「セブン」を書籍化しようというお話をいただいてるわけですから、「もし売れたら、『エイト』も見てもらって、出せたりしないかなー」と夢想しなかったと言えばウソになりますけど…。
正直、この頃はまだ、「セブン」の出版が現実になるのだと信じ切れずにいました。(^^;
だってねぇ、本を出したい人なんて山ほどいるわけで、それなのにプライベートで公開した作品が、とんとん拍子で出版にこぎつけられるなんて、話がうますぎるじゃないですか。
いつ「すいません、やっぱりあの話はなかったことで」と言われるかと、連絡の度にびくびくしてました。(笑)
それに、原稿を見せる行為には「良かったら出版を検討してください」という下心が多かれ少なかれ含まれているものと解釈されるでしょう。
「セブン」の件すら流動的な(と思っていた)状況で、「こっちも見てください」と言い出すのは図々しいんじゃないかと思いましたし、もしその評価が芳しくなかった場合、「セブン」にまで悪影響が及び、それこそ「なかったことで」につながりかねないという危惧もありました。
ただ、年が明けて成瀬さんを交えての打ち合わせも決まったことで、疑り深い私も「どうやら本当に出版に向けて動いているようだ」という判断に傾き、であれば、こちらの手の内をさらして判断は任せるのが誠意というものだろうと腹をくくりました。
「元々、『セブン』が出版されるとは思ってなかったんだし、流れたところで損をするわけじゃないんだから」と最悪の事態に備えて自分に言い聞かせつつ、「エイト」の原稿を提出。
そうしたら、打ち合わせ当日になってメールが届きます。
「いいじゃないですか〜。『2冊同時刊行!』とかで行きませんか」
目を疑いました。
と言うか、失礼ながら、編集さんの正気すら疑いました。(笑)
「私は騙されませんよ」どころの騒ぎじゃありません。
「ありえんだろ!」とさえ思いました。
だって私は、出版業界では、ゲームのノベライズを3冊出しただけの新人同然の存在です。
それがオリジナルの小説を、しかも2冊同時刊行って…。
「一体なんの罠?」と首を傾げた私を笑う人はいないのではないでしょうか。
ところが編集さんは、成瀬さんとの打ち合わせでも迷わずその話を切り出し、彼女の了解を取りつけてしまいます。
…おいおい。(^^;
と、心のなかで何度ツッコミを入れたことやら。(笑)
ともあれ、こうして「セブン」と「エイト」は出版に向けて動き出すことになりました。

そこから先に関しては、私自身は特筆すべきこともありません。
「セブン」「エイト」とも、加筆や修正はそれなりにしましたけど、ひとまず結末までたどり着いている性質上、作業的な負荷はそれほどでもありませんでした。
せいぜい、わかりづらい部分に挿入する説明図の原図として、へったくそな絵を描いている自分に苦笑したくらいで。(笑)
大変だったのは、タイトなスケジュールに追われた成瀬さんだったと思います。(^^;
いや、本当、最初から最後までお世話になりっぱなしで、頭があがりません。m(__)m

ちなみに、編集さんと「ゴースト」について話していたとき、当初の予定通り夏に公開されていたら、うちでは手が出せなかっただろう…と言われました。
公開されてある程度の時間が経ってしまうと、新作として扱うのは無理なんだそうです。
そういう意味では、なんやかんやで公開が半年ほど遅れた結果、出版という幸運に浴することになったわけで。
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだと思います。
曲がりなりにも小説を書いて世に出した人間が言うことじゃないかもしれませんが。(笑)


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