旅 立 ち

あなたが旅立ったとき
僕たちは北の街でまだ学生だった
北の大地に憧れ
将来の夢を叶えるため
あなたが育った大地に立ちたくて
遠くの街からはるばると

北の大地は魅力いっぱいだった
風にそよぐポプラ並木
風を切って走るサラブレッド
大好きなギターで風の歌を唄った
いつかあなたに逢える日を夢見て
この大地であなたに逢えると

でもあなたは僕たちが育った街にいた
ブラウン管に映るあなたの姿を見ていた
愛しい恋人に逢えない男のように
いつも思っていたことを思い出す
でも愛しい恋人には逢えない
ドラマの筋書きはいつもそんなもの

しかし遠くで聞くあなたの活躍は
逢えない僕たちには励ましであった
たった一つの希望のように
何を信じていいかわからない苛立ちの中で
たった一つ信じれたあなたの眼差し
僕たちの思いを知っていたような走り

そして結局僕たちはあなたに逢えなかった
緑のターフという最高の舞台でのあなたに

きっとあなたにとっての最後のレースに勝ち
そしてすべてのレースを終えたあなたに
逢えるという思いは叶えられなかった
寒いある朝、朝刊であなたが旅立ったことを知った
覚めない夢のような気分で僕は友人に告げた
「テンポイントが旅立ったよ」

旅立ちの朝、僕たちは走り切った彼のことを
これからの自分たちの旅立ちのことを
静かに何回も何回も胸の中で反芻した