はるかなるテンポイント

 はじめまして。
 1978年(昭和53年)5月に、関西テレビで放映したドキュメンタリー『風花に散った流星・テンポイント物語』をご存知でしょうか。私は、その番組の撮影を担当した元関西テレビのカメラマンです。02年に定年退職し、今も映像カメラマンをしています。

 27年前の3月5日の深夜、私は、吉田牧場の重雄氏とふたり馬房にいて、350キロほどになってしまったテンポイントの傍らでカメラを廻していました。仄暗い灯りのもと、微かに揺れる額の流星と、左後肢に巻かれた包帯の白さが今も目に焼き付いています。馬の首筋を撫でながら吉田氏は、よし、よし、とテンポイントに声を掛けつづけていました。その時、私は、遠い昔話を聴いているような懐かしい思いにとらわれたのでした。

 『テンポイント物語』を制作した時のことを思い出しつつ、馬主、吉田牧場、当時の騎手、厩務員、テンポイントの治療をした獣医師の皆様にお話を聞いて、今回、『流星の貴公子テンポイントの生涯』(集英社新書)を刊行することになりました。

テンポイントの死から27年、もう遠い昔のことになってしまいましたが、文章を書きながら、歳月を超えてあの当時の切ない思いが蘇ってきたものでした。本は、5月17日に発売されることになっています。皆様にご一読いただければ、とてもうれしいです。私は、6月のはじめに吉田牧場を訪れるつもりにしています。

平岡泰博