師走の一日

 自分の実家はビルの四階にあります。  
 とある日、そこで「キッ!」という甲高い声を聞きました。
 室内は自分ひとり。思わずネズミを連想します。耳をすませると、また「キッ!」という鳴き声。足音を忍ばせ、鳴き声の聞こえた方へと歩いてみます。しかし、この時点で、すでにおかしかったのです。ネズミのような害獣は人間の気配を感じれば、すぐさま逃げ出します。
 果たして周囲を見回してみると、窓の外に小さな小鳥の顔が見えました。
 ブラインドの隙間から、こちらを見ています。クチバシの形から文鳥だとわかりました。あきらかに人間に飼われている鳥です。てなわけでサビついた窓を開け、腕をひねって文鳥を回収。案の定、逃げるでもなく抵抗するでもなく、あっさり手の中に収まってくれました。   

 さて、そこからが大変。  
 ウチはペットなんていませから、エサもなにもありません。とりあえず100円ショップのビニールのカゴを組み合わせて即席の鳥かごを作ります。しかも、よくよく見たら文鳥は成鳥ではありませんでした。  
 ヒナとまではいきませんが、明らかに若い未熟な鳥。自力でビルの四階まで上がれるような体力はありません。となると、近くの高層マンションから逃げ出してきたか?  
 しかし、この時はわたしも所用を抱えていましたので、つきっきりというわけにもいきません。とりあえず、なんとかなりそうなのを見届けて仕事を片づけます。あとはエサか?
 ところが!  
 コンビニとかスーパーではイヌやネコのエサは充実してても、小鳥のエサなんてありません。しかも相手は若鳥。成鳥用のエサを食べてくれるかもわかりません。結局、あれこれ探し回った挙げ句、大きなホームセンターでエサを確保。ついでに小さなブランコなんぞも買って帰ります。  

 でも……  
 家に戻った時、鳥は死んでいました。
 
 なんで?と思いますが、家族もなにかしたわけではありません。
 ちょっと目を離した間に、事切れていたのです。  
 体力を消耗していたのか? 
 そんなのわかりませんよね。
 自分が発見したのが午前一〇時ごろ。戻ってきたのは午後四時。  
 わずか六時間の命でした。  

 努力がムダになるとか、別に珍しいことではありません。  
 でも、命が関わるとやっぱり凹みます。  

 この世に神様なんかいない。  
 そう実感した師走の一日でした。