青少年健全育成条例改正案可決

年の瀬の浮ついた気分の時期に、なんとも憂鬱なニュースです。
すでにあちこちに多くの情報も流れ、さまざまな議論も生まれているのですが、東京都側から言わせると、この改正案は言論の自由や表現の自由を損なうものではなく、また既存の成人向け漫画が影響を受けることもないのだそうです。
要するに「このクスリには副作用がありません」と言ってるわけですが、この世に副作用のないクスリなど存在するわけがなく、もしあるとすればそれは作用もないクスリということになります。

漫画家も出版社も影響を受けず、困ることもない法律なら、そんなものをわざわざ成立させる必要なんてないわけで。さらにイヤらしいのは、この改正案では、小説が除外されているという点です。
支配者は大衆を「許可された人間」と「許可されない人間」とに巧妙に色分けし、互いに反目させることで自己の安定を計ります。そんなわけで文字しか扱わない表現者も、そしてなによりも読者である大勢の人々も、この条例の危険な側面を心に留めおくべきでありましょう。

ちなみに去る12月13日には、集英社の手塚賞・赤塚賞の表彰と恒例の謝恩会がありました。普段は華やかで楽しいパーティなのですが、ちょうど都の委員会で条例案が可決された直後ということもあり、社長は冒頭の挨拶で異例の言及をしました。
華やかなパーティの席での政治の話題というのは、いささか禁じ手ですが、やはり一言言わずにはいられなかったのでしょう。もっとも対する聴衆の反応は今一つで、困惑が広がっている様子が見て取れました。

察するに、こちらのパーティは漫画家さんなどはあまり顔を出さず、代理店とかデザイン会社など取引先の関係者の人たちが圧倒的に多いので、あまり危機感はなかったのかもしれません。それでも何人かの知り合いに敢えて水を向けてみましたが、みんな「とりあえず様子を見る」という感じでした(露骨にイヤな顔をされたりもしましたが)。
これまでの商品が扱えなくなれば、企業は別の商品を扱うだけの話。マンガやアニメ、ゲームも同じというわけでしょうか。寂しい気持ちもしますが、かといって、こうした企業の姿勢を批判するのもいささか酷な話に思えます。企業の存在意義は利潤を追求することで、政治活動ではないのですから。問題意識は、そこで働く人々の個人的な心情に作用していると信じたいです。

さて、すでに成立してしまった法律に対して、わたしたちは何ができるのか?という点については、ネット上で多くの示唆に富んだ意見を読むことができます。いたずらに過激な行動に走ることなく、的確な反攻作戦を展開したいと思います。

それにしても石原都知事の言動を見聞すると、わたしはニキータ・フルシチョフの「ロバの尻尾事件」を連想せずにはいられません。後世の批判に耐えうる政治というのは、幻想に過ぎないのかもしれませんが、ちょっとぐらい努力したっていいと思うのですがね。