マイマイ新子と千年の魔法
かなり前になってしまうのですが、いきなり試写会のご案内ハガキが来ました。
タイトルに『マイマイ新子と千年の魔法』とあります。はて?
そのハガキをじーっと見て、カントクが片渕須直氏であることに気づくまで数分。
おや! ブラックラグーン(TVシリーズ)以来、すっかりご無沙汰して…と思っていたら、劇場用映画を監督されていたとは。早速、カレンダーとにらめっこして試写会の日時をチェックです。
と・こ・ろ・が…。
すみません。試写会行けませんでした。次こそはと思うたびにバタバタと雑事が起こり、なんだかんだで後回し。いつしか試写会には行きそびれ、そして公開日も過ぎてしまいました。
いや、カントクすみません。
そんな折、ブラックラグーン第3期の制作がスタートすることになり、私もスタッフとしてマッドハウスへ呼ばれました。今度はOVAです。
久しぶりにお会いしたカントクに私の方から話を振りました。
わたし 「すみません。ご案内まで頂いたのに、まだ見てないんです」
カントク 「見てくださいよ! 今ならお徳な特別鑑賞券がマッドハウスでも…」
わたし 「おお、それは是非!」
いつかそのうち…では、絶対に見逃します。
こういう時はビシッと決めなければなりません。
ちなみにチケットを買った時、カントクからこんなことを言われました。
カントク 「この映画は津久田さんの世代を直撃してますから、絶対泣きますよ。
試写会でも劇場でもオッサンたちがボロボロ泣いてましたからね」
わたし 「わたしはオッサンではないので泣きませんよ」(´・ω・`)
カントク 「いや……泣くぜ……」( ̄▽ ̄)ニヤリ
ここで映画の紹介を簡単に。
原作は芥川賞作家・高樹のぶ子の自伝的小説。昭和三十年代の山口県防府を舞台に、空想好きな少女・新子が成長していく物語です。ちなみに防府という街は、平安時代には周防の国と呼ばれており、清少納言が幼少の頃を過ごしたことでも知られています。
で、肝心の中味の話ですが、さすがと言うか、やっぱりと言うか、いかにも片渕カントクらしい、なんとも巧みに作られた映画です。
タイトルにある『千年の魔法』というキーワードを初めて聞いた人は、この映画が当然のごとくファンタジーであるという先入観を持つかもしれません。ですが、この映画には妖精も怪物も魔法使いも出てきません。極めて周到に準備された時代考証の中で、少年少女が生き生きと暮らす日々を追っただけの映画です。
主人公の新子は素晴らしい空想力の持ち主で、それがこの映画の大きな魅力でもありますが、空想はあくまでも空想。苦い現実をひっくり返したりする力はありません。けれども映画が始まれば、観客はすぐにファンタジックな感覚を味わうことになります。これこそアニメーションの真骨頂。
ネタバレになってしまいますが、実はこの映画には二つの軸があります。
一つは主人公である新子たちの世界。もう一つは清少納言が生きる平安時代の世界です。といっても二つの軸は殊更リンクしている訳ではなく、もちろんタイムスリップとかそういう仕掛けもありません。
ですが、この二つの軸を見事に組み合わせた構成の妙が、演出に込められたシンクロニシティのテクニックと相まって、この作品を揺るぎないファンタジー作品に仕上げています。
『二つの時代の現実を描いているだけなのに、その二つを同居させることによって見事にファンタジーを成立させている』
この仕掛けには唸らされました。
ちなみに清少納言が遊んだ防府の時代に関する描写は、原作小説には登場しません。清少納言の言動は枕草子などから引用されているものの、この二つを組み合わせたのはカントクのアイデアなのです。
この辺りの経緯は、サンデーGX編集部の忘年会の帰り道、銀座の夜景を眺めながらカントクと直にお話しして確認できました。お気に入りの映画について、それを作ったカントクとホロ酔い気分で語ることができるなんて、すばらしく贅沢な体験でした。
残念ながら、このコラムがサイトにアップされる頃には、上映期間が終了してしまっている映画館も少なくないと思います。まったくもったいない話です。という訳で、この映画の上映延長を求める署名サイトがあります。
興味を持った方には、是非署名へのご協力をお願いします(わたしも微力ながら署名させて頂きました)。また、ウチの地元じゃまだ上映してるよって人は映画館に是非!
さて、まだまだ語りたいことはあるけれど、それを全部書くのは野暮というもの。わたしの言葉にどれほどの説得力があるはわかりませんが、それでもこの映画はしっかりお勧めしちゃいます。
なお、わたしが劇場で泣いたか否かですが…それはナイショです。