テンプレートな会話
先日、ちょいと遠出をすることがあり、いつもとちがう場所で昼食を取りました。
とある有名大企業の本社ビル。その前にズラリと並んだ飲食店。昼休みの時間帯にぶつかったせいで、どこも行列です。もっともよく見ると行列はもっぱらテイクアウトで、店内は比較的空いています。
そんなわけで、その中のひとつに入ってみました。
無難にカレー専門店です。といっても日本独特のカレーショップというわけではなく、さりとて特定の地域のカレーを代表する店でもありません。タイ風グリーンカレーとか、スマトラ風ブラックカレー。もちろん普通のカレーもありますし、メキシコ料理なんかもあります。つまりはスパイシー料理専門店のようです。
とりあえずカウンターに座り、タイ風グリーンカレーを注文。家族経営のお店らしく、厨房では老若男女が忙しそうにしています。
その時でした。
「あら、フィッシャーさん」
「コンニチハ」
店員のおばちゃんが馴染み客に挨拶しました。アメリカ人ビジネスマン二人組が狭い店内に入ってきます。慣れた様子でメキシコ料理のタコスを注文。自分のとなりに並んで座ります。
ちょっと気になったので、ふたりの会話に耳をすましてみました。
アメリカ人は食事の時には絶対に仕事の話をしないとよく言われますが、果たして本当にそうか? 聞いてみると実際、ドーターとかワイフといった家族を意味する単語が聞こえてきます。
おー、ホントだ!
それだけではありません。
“Therefore, I said……” ……だから俺は言ってやったのさ。
“Then, ..wife.. how said do you think?”……そうしたら女房、なんて言ったと思う?
“HAHAHAHA!”
うひゃあ!
拙い英語力で断片的に聞き取っただけなので、必ずしも正確ではありませんが、すげーテンプレートな会話をしているようです。
ストライプのワイシャツを着たアメリカ人ビジネスマンふたりが、メキシコ料理をつまみながら、家族ネタの典型的なアメリカンジョークの応酬……。
なんかアメリカのテレビドラマの世界に紛れ込んだような錯覚を起こしました。彼らは本当に日常会話をしているのか、それともシナリオを読んでいるのか?
アメリカのビジネスマンは入社して三年以内に、少なくとも四回の銃撃戦と二回のカーチェイスに巻き込まれなければ、一人前と認められないそうですが、自分の作品にアメリカ人を登場させる時も、こうじゃなきゃいけないんでしょうかね。
ハリウッド映画に出てくる日本人は大抵どこかズレていて、我々から見ると「あぁ、またか」という気分にさせられるのですが、こちらもある意味、日本人と大差ない没個性ぶりだなぁ……と思ったり。
偏見とは、わずかなサンプルを全体に適用するところから生まれるという好例であります。