もう、時効ですよね?
 

 その昔、とある企画会社にお世話になっておりました。
 オモチャとかゲームとか、アニメの企画をしている会社です。社員の人は否定するかもしれませんが、まぁ、オタク会社ですな。
 そんなわけだから、社内には資料とも私物ともつかないオモチャやガラクタがあふれてました。でも、児童向けの企画が多い社風からか、ミリタリーというか、モデルガン&エアーガン系のアイテムは無かったように思います。
 だからこそ、あの日、社長さんははしゃいでしまったのですが……。

 断じて、自分ではありませんが、ある日、会社にモデルガンを持ってきた人がいました。
 リボルバーの拳銃。しかもショルダー・ホルスターまで。
 いつもは興味を示さない社長が、何故かその日は面白がりました。
 ホルスターの付け方を教わり、ハジキをブチ込んで、しばし社長デスクでボス気取り。
 まぁ、それは良かったのですが……。
 夕方までそのまま。挙げ句に「これ、しばらく借りていい?」とか言い出します。
 なんか本格的に気に入ってしまったようです。だったら買えよと思いながら、わたしは自分の仕事をチマチマ片づけていたのでした。
 で、翌日。
 前日の興奮、覚めやらぬままらしく、社長は自家用車で出勤。よせばいいのに、ショルダー・ホルスターにモデルガンをブチ込んだまま運転です。
 だけど、そんなもの、運転には邪魔でしかありません。
 案の定、途中の信号でいそいそと位置を直します。
 その時でした。 社長、どこからか視線を感じます。
 隣は大型トラック。 運ちゃんが顔面蒼白でこちらを見ています。
 その瞬間、社長は「やべぇっ!」と思いました。いい年した社会人が、オモチャのピストルなんかいじくってる。なんてカッコわるい!
「いやぁ、恥ずかしかったよ」とは社長の弁。
 ですが、わたしたちは一様に首を振りました。
 高校生がエアガンを振り回すのとは、わけが違うのです。
 社長は、白髪混じりの髪に口ヒゲ、サングラス。アルマーニのスーツを着こなす見るからにヤクザな風貌。しかも、乗ってるクルマはジャガー。

 舞台装置が完璧だと、オモチャもオモチャには見えません。
 ちなみにトラックの運転手さんは、信号が青になるなり、物凄いスピードで遠ざかっていったそうです。 おいたわしや。

 念の為、申し上げますと、これはとても昔の話です。
 社長、もう時効ですよね?