好きな映画『特攻大戦略 コードネーム・フラッシュ』  

 チベット暴動で中国がゴタゴタしている今ほど、この映画の紹介にふさわしい時はない!
 てなわけで、空気を読まない最悪のタイミングでご紹介いたします。  
 映画の結末や途中の見どころなど、すべて書かれています。もし、これからこの映画を見る予定の人がいたら、このコラムは読まないでくださいね。 (し
かもムダに長文です)

「ストーリー」  
 時は1979年。中国とベトナムは激しい軍事衝突を繰り返していた。  
 中国軍は、ベトナム軍の強力な長距離砲によって大きな損害を受け、苦戦。長距離砲の位置がわからないため有効な反撃すらできずにいた。  
 そこで司令官は偵察部隊のチャン少尉に、ベトナムの長距離砲の所在をつきとめるよう命じる。チャン少尉以下、総勢7名の暗号名はフラッシュ。  
 だが、彼らの行く手にはベトナム軍の精鋭を率いるルエン・ジー・ヤンが立ちはだかる。ルエンは中国軍の士官学校で訓練を受け、中国軍の戦い方を熟知している男だった。彼の仕掛けた罠にはまったフラッシュは、多くの犠牲を払いながらも任務を遂行。困難をはねかえし、ついにベトナム軍の長距離砲の位置を突き止める。  
 チャン少尉の指揮のもと、中国軍は一斉反撃。輝かしい勝利を収めることに成功する。進撃する友軍部隊を見て、生き残った隊員たちは散っていった仲間のことを思うのであった。  

 えーと………ですね。  
 とにかくツッコミどころ満載です。なんで中国とベトナムが戦争をしてるの?と思った人は「中越紛争」で調べてみてください。事実関係を知った上でこの映画を見ると、頭痛のレベルは5割増になります。  
 しかし、それでもスゲー面白い!   
 いや、だからこそ面白い! もう大好き! 最高!  
 制作年は1990年。返還を間近に控えた香港と中華人民共和国の合作です。こうした背景に政治的な意図をくみとる見方もできますが、映画はそんな下衆の勘ぐりを一瞬でブッ飛ばすほどの凄まじいインパクトにあふれています。ちなみに、中国語での原題は「閃電作戦」。  
 人民解放軍が全面協力しているだけあって登場兵器はすべて本物。世代的には古いものばかりですが、それだけに分かりやすい迫力があり、威力はあるけど、どこかそっけない最新兵器よりもビジュアル的には派手です。  
  しかし、なんといってもこの作品の魅力は、全編に漂うキワモノ臭。  

 まずベトナム軍の司令官がスゴイ。  
 洞窟の奥で、籐製の椅子(エマニエル夫人チェアーみたいな奴)に座り、ブランデーグラスを片手にニヤけている有り様。どう見てもショッカー・ベトナム支部………。優しい笑顔を浮かべたホーおじさんの肖像画が、納谷悟郎の声でしゃべるところを想像してしまいます。  
 そこへ現れるエリート将校のルエン・ジー・ヤン。いきなり司令官に酒の差し入れです。
「ふむ。中国の酒か」
「まもなく我々の酒になります」
「中国兵は腰抜けばかりだ。ガッハッハッハッハ!」  
  ん? なんか、ベトナムが中国を侵略してることになってるぞ。  

 一方、特殊部隊フラッシュのメンバーは最初からひとつの部隊として編成されているのではなく、チャン少尉が集めてきます。この辺の仲間集めはお約束ですね。  
 キャラクターもいろいろ。
・真面目な副官のカール・ホウ。
・初めて実戦に参加する通信係のラリー・ワン。
・ひょうきんな性格の地雷撤去係、ロニー・リー。
・勇敢で忠実なフランキー・ペン。  
 彼らはチャン少尉の部下ですが、チャンはさらに戦友のギャリー・ジャンとベテラン兵士ヘンリー・チューを加えます。(みんな西洋風の名前ですが、この辺はジャッキー・チェンとかと同じノリでしょうね。ちなみに本編は英語吹替えです)  
 ギャリーは別の部隊で小隊長を勤めていましたが、ベトナム軍によって部下の半分を失っていました。最初はチャン少尉に反抗的ですが、実際には信頼できる凄腕。  奥さんと子供がいて、とっても子煩悩です。年齢的に出世は望めないので、退役したら腕一本で大金が稼げるボクサーになるのが夢です。  
 はい……そこ。死亡フラグとか言わない。  
 そしてベテラン兵士のヘンリー・チュー。しかし、彼を迎えに行ったチャン少尉は意外な光景を目にします。なんと結婚式。ヘンリーは若くてかわいいお嫁さん「フローラ」と祝言をあげたばかりだったのです。事情を察したチャン少尉は適当なことを言って、立ち去ります。  
 はい……死亡フラグです。お嫁さんの。  
 つーか、敵の火砲の射程圏内で結婚式あげて所帯持つってどういうことよ?  
 とはいえ、この映画に湿っぽさはほとんどありません。この辺、香港映画テイストをしっかりと引き継いでいます。(てゆーか、キャラの爆死率が異常に高い映画です)  

 もちろん、それ以外にも美しい女性キャラが登場します。  
 名前はヨ・メイ。国境地帯に住むタイ人で、ベトナム軍に家族を皆殺しにされ、自分も負傷してカール・ホウに助けられますが、いつの間にか病院から脱走。物語の中盤で何の脈絡もなく再登場し、あっさりフラッシュに合流します。  
 はい……仇討ちです。これがなくちゃ香港映画じゃありません。  
 しかも、このねーちゃんがつええ。転げ回って銃火を避け、次の瞬間にはベトナム兵をけちらして銃を奪うと、一斉射撃で皆殺し。  
 そして敵。  
 ベトナム軍諜報隊の隊長ルエン・ジー・ヤン。ちゃんと南方系の顔立ちをした人です。小沢一郎にちょっと似てます。  
 で、この人、ベトナム戦争つながりで米国のM-16を愛用しているのですが、この銃の素性が怪しい。表面の仕上げとかハンドガードの質感とか見るに、どうもノリンコ製(中国の銃器メーカー)のコピーじゃないかと思うのです。もちろん日本のモデルガンである可能性も否定できませんが、射撃シーンの作動が快調なので、実銃の可能性も排除できません。  
 というわけで、以後、ルエン隊長のことは「ノリンコ親父」と呼ぶことにします。  

 さて、もう一つ。  
 この映画の魅力に登場人物たちの驚異的な身体能力があります。ランボーだのコマンドーだののレベルではありません。たぶんプレデターでも勝てないでしょう。  
 なにしろ強い。そしてタフ。冒頭の訓練シーンもすごいですが、他にも川をいかだで渡ったり(急流の中、腕力だけで岸につけたりする)、とんでもねー高さの険しい岩山をぐいぐい登ったりします。すごいのは女性であるヨ・メイもそれに付き合わされてること。  
 当然、彼女は「もう無理よ!」とか言うのですが、フラッシュは許しません。「頑張るんだ!」の一言で強引に登り切らせます。つーか、ねーちゃんもすげえ。  
 しかし、彼らの体力はここからが本番です。数々の難関をくぐり抜けて安心したのも束の間、フラッシュたちはノリンコ親父の仕掛けた地雷源に追い込まれてしまうのです。後ろからはベトナム軍。逃げ込めそうな洞窟の前には地雷! アイヤー! 絶体絶命アルヨ! と、思うのが日本人の浅はかさ。フラッシュの能力はそんなもんじゃないんです。  

 絶望的な雰囲気の中、ロニー・リーが「地雷撤去完了!」と叫びます。そういえば彼は地雷撤去のエキスパート。でも全然撤去できてないんですが……さてはブラフか? と思った次の瞬間、彼はとんでもない方法で地雷を撤去します。  
 走る! とにかく走る!   
 そうです! 地雷を踏んでも爆発する前に駆け抜けてしまえばいいのです! 
 このワザを身につけていれば、ロバート・キャパも死なずに済んだ!

 そうやってドッカンドッカンと火を噴く大地を彼は駆け抜け……って、ンなもん上手くいくはずがありません。案の定、彼は地雷に吹き飛ばされます。  
 そうだよなぁ。それがリアルってもんだよなぁ……って……。  
 生きてるし……。  
 そうです。彼は生きているのです。でも片足が吹き飛んでます。  
 今度はその状態でピョンピョンと飛び跳ね、またもや地雷源に挑みます。そしてまた吹き飛ぶのですが、彼は負けません。両足を失ったままゴロゴロと転がって地雷を撤去し、最後の最後にやっと粉々に吹き飛ぶのです。(オレ、何回「吹き飛ぶ」って単語使ってんだろ……)  
 それにしても中国の人って、なんて頑丈にできてるのかしら。  
 やっぱり中華料理を食べてるからかな?  

 いいや、まだまだ! フラッシュのスゴさは体力だけではありません!  
 もちろん知能も超一級です。追い詰められたフラッシュ。その時、ヨ・メイが本性を表します。彼女はノリンコ親父が放った工作員だったのです! しかし、チャン少尉は動じません。
「おまえがスパイだということは、最初からわかっていた!」  
 ヨ・メイは動揺します。
「ど、どうして?」
「おまえは家族の仇を討つと言いながら、あの崖を登ることをあきらめようとした!」  

  …………え?  

 ちょっと待てぇぇぇい! すさまじいオーバーハングの崖をロクな装備も無しに、二本の腕で登るんだぞ! あきらめるのを非難するのはいいとしても、それがスパイの証拠か? しかし、チャン少尉はその後も名探偵よろしく続けます
「実のならない木にのぼって食糧を調達しようなんてのも白々しい芝居だった」
「ルエンが、わたしの名前を知っているのはなぜだ?」  
 あの……そっちの方が、よっぼど説得力のある理由なんですが。  

 結局、ヨ・メイはノリンコ親父の目の前でハチの巣。いや、撃ったのはベトナム軍です。つか、女は味方だから撃つなって言っておけば良かったんじゃないかなー。「放っておけ、女は敵が殺す」とか冷たく言い放つチャン少尉にもシビレますが。  
 しかし、ノリンコ親父はマジ切れ。部下に突撃を命じます。このシーンはすごいですよ。一斉に突撃するベトナム兵たちが、目の前に戦友がいるにも関わらず銃をブッ放してます。味方に当たっちゃうよー。  
 そして火炎放射器ドバ〜!
 
 が、この攻撃がフラッシュたちの命を救います。行き止まりのはずの洞窟なのに、煙が流れていくのです。出口がある!  
 かくしてフラッシュは脱出に成功……と、思いきや、そこは丘の頂上。周囲は敵兵だらけ。ここでギャリーが献身的な働きを見せて、時間を稼ぎます。  
 このシーンが長い長い。  
 何発も撃たれるのですが、いつになったら死ぬんだ?と思うぐらい持ちこたえます。倒れる時もスローモーションで引っ張る引っ張る。  
 それにしても中国の人って、なんて頑丈にできてるのかしら。  
 やっぱり中華料理を食べてるからかな?  

 もちろん、他のメンバーも負けてはいません。  
 ヘンリーとカールが残り、チャン少尉の後方を死守します。この戦闘もエグい。奮戦むなしく弾が切れたカールは、スコップで敵兵の顔面をカチ割り、最後の抵抗。それも及ばず捕虜になりかけますが、唯一残った手榴弾のピンを抜くと、沢山の敵を道連れに三途の川を渡っていきます。  
 そうこうするうちにチャン少尉たちは、ついにベトナム軍の秘密をつきとめます。  
 山をくりぬいたトンネルの中に、長距離砲が隠されていたのです。急いで位置を知らせ、攻撃しなければなりません。しかし、そこへノリンコ親父が最後の攻撃をしかけてきます。彼もほとんどの部下を失い、必死です。  
 フランキーは重傷を負い、通信係のラリーは通信機をかばってハチの巣にされます。  
 そして始まるクライマックス。チャン少尉とノリンコ親父の一騎討ちです。  
 で、銃撃戦はすぐに弾切れ。  
→ナイフバトルへ。  
→やっぱり伝統、カンフーバトル。  
→それもできなくなり、最後はその辺の石で殴りあい。  
→トドメは漬物石サイズの岩で頭カチ割り。
→そこへ敵味方不明の砲弾が着弾、ノリンコ親父ようやく死亡。    

 あの……。なんつーか……。すげー映画だよなぁ。やっぱり。  
 しかし、それでも生き残るのが主役! チャン少尉は自分の腕と指先で目標の座標を割り出し、ついに攻撃指示を出します!  
 次々と吹き飛ぶベトナム兵。  
 日本映画だったら爆煙を背景に手足をバタつかせてフレームアウトして終わりですが、本作の場合、いちいち砲架や薬莢に「ゴン!」「ガン!」と痛そうな音をたてて頭を強打するベトナム兵が出てきます。  
 そしてトドメの一言。
「敵は壊滅した! 我々の勝利だ! ファイヤーッ!」   

 ちょっと待てッ!  

 敵は壊滅したんだろ?   
 きみたちは勝利したんだろ?  
 だったら、もう撃たなくていいだろ?  
 いえいえ。だからこそ撃つのです! これが中国五千年の歴史!   
 もうベトナムは、人も大地もボコボコです。フルボッコです。これでもか、これでもかの砲撃。地形が変わるレベルです。この辺は軍事演習の記録フィルムそのままですが、いい資料ですね。で、最後は勝利の雄叫びをあげる人民解放軍の進撃でエンドとなります。  

 あぁ……すげー疲れた。  
 ざるそばでも食べてきます。