いろいろ大変なんだなぁ…。

「おまえたちも××さんから電話がきた時は、最初の一言ぐらい、ちゃんとアンニョンって言うんだよって、わたしも子供たちに言ってるのよ。
 普段は日本語でもいいけど、同胞と話す時はちゃんと気を使うんだよってね。
 だけど、○○さんとこの奥さん、いるでしょ?
 あの人とこないだ道端で出会ったから、わたしアンニョンって言ったのよ。それなのに、こっちのこと無視してるのよ? 
 息子が私立大学に合格したからって、えばっちゃっててさ。感じ悪いったらありゃしない」

 北朝鮮のミサイル騒動のニュースを見ていて、ふと思い出した会話です。   
 もうかなり昔の話になりますが、料理で粉末のトウガラシが必要になり、専門店に行ったのです。その時、店内を物色している時に聞こえてきた会話です。  
 店の片隅で中年の女性が、近所のおばさんと話し込んでいます。中学や高校の息子や娘は、もはや本来の言葉を、ほとんどしゃべらなくなっている。というより、そもそもしゃべれないのかもしれません。  
 それでも民族のつながりとかは無くしちゃいけない。だからカタコトでもいいから、挨拶ぐらいは「アンニョン」と言いなさいと、その女性は子供たちに躾けているのでしょう。  
 けれども、ご近所づきあいも色々とあるようです。  
 息子が一流大学に入った家の奥さんは、なんだかこっちを見下すようになったみたいで、感じが悪い……。ぶつぶつぶつ……。  
 どこでも井戸端会議の中味は似たようなものです。  
 しかし、民族のアイデンティティに関するこの話で、なによりも興味深かったのは、上述した女性のぼやきが、すべて日本語だったことにあるのです。  
 でなければ、わたしには理解できません。   
 小さなエピソードですけど、いまだに印象に残っているのはこのためです。