好きな映画『デューン 砂の惑星』(監督:デヴィッド・リンチ)

 最初にはっきり申し上げますが、この映画、決してオススメはしません。見るのはご自由ですが、苦情は一切受けつけません。  
 原作はフランク・ハーバートの長編小説。わたしの大好きな小説です。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」も本作の影響を受けていると言われています。そ
んな作品を、誰もが認める変態キチガイ監督のリンチが映画化してくれました。わーい。  

 当時、彼の監督作品は、ほとんど自主制作といっていい「イレイザーヘッド」と、世界中の善意ある人々がカン違いして感動巨編ということにされてしまった「エレファントマン」だけでした。そんな彼を起用するという大胆な決断をしたのが、プロデューサーのラフェーラ・ラウレンティス。  
 そう、あのディノ・デ・ラウレンティスの娘です。  
 知らない人のために付け加えますと「バーバレラ」のラウレンティスです。「フラッシュ・ゴードン」のラウレンティスと言ってもいいでしょう。ナベツネと角川春樹を足して2で割って、石原慎太郎をブレンドし
たような人です。このお父ちゃんも本作にしっかりクレジットされてます。  
 こんなにもアクの強い人たちがトップに君臨して、しかも予算は160億円(!)。  
 出来は言わずもがな。壮大かつ決定的な失敗作です。空中分解なんてレベルではありません。ストーリーを紹介していないのは、書いてもムダだからです。  
 しかし、それでも大好き。永井豪いわく「構成が破綻してても美意識だけで映画ができることを証明した」とは、まさに至言。  
 実際、世界観の構築があまりにも完璧なので、映画の出来が悪くても「あの星でもう一回、ロケしなおせばいいじゃないか」とさえ思ってしまいます。  
 美術セットやメカデザインなどは、これまでのSF映画とは一線を画しています。「似ているものが無い」というのは実はすごいことで、オリジナリティというものについて考えさせられてしまいます。
 その一方で、衣装はビクトリア朝の厳格なミリタリードレスだったりします。ボンデージ風の衣装もあります。ヘンテコなパンツをはいて、意味もなく裸を披露するスティングなんぞもいます。  
 でもってリンチ特有のグロ描写もあります。原作を徹底的に削っておきながら、自分好みのシーンを勝手に加えるリンチは、自分の欲望にとても正直な人だと思いました。  

 ところで、この映画にはもうひとつのバージョンがあります。未使用フィルムをつないで長編にしたバージョンです。あまりの出来にリンチが監督名を出すことを拒否。かの有名な「アラン・スミシー名義」で世に出ました。  
 わかりやすさという点では、多少マシになってますが、ちょっと泥臭い仕上がりです。  
 ストーリーをキチンと理解した上で楽しみたいという人には、テレビシリーズをオススメします。アメリカのサイファイチャンネルが制作したシリーズで、こちらはリンチとは無関係。でも原作にかなり忠実です。日本でもDVDが出ていますから、見比べてみるのも面白いでしょう。  
 ちなみに、その後のリンチは、本作で主役を演じたカイル・マクラクランを抜擢して「ブルーベルベット」を監督。各地の映画賞を総ナメにします。カイルとは相性がよかったようで、やがて「ツインピークス」シリーズが大ヒットすることになります。  
 こういう業界の結びつきは面白いものです。
 本
作の舞台裏を記した「メイキング・オブ・デューン」という本があります。著者はエド・ナーハ。この人、ティム・バートンの「バットマン」のノベライズも担当しているのですが、「デューン」と「バットマン」の衣装デザインは、どちらもボブ・リングウッドだったりします。あちらの業界も狭いようで。  

 さて、ここまで書くと「もうひとつのデューン」に触れないわけにはいきません。とうとう映画化されずに終わった幻の作品です。  
 製作は「エルトポ」などを手がけたアレハンドロ・ジョドロフスキー。  
 でもって、監督はリドリー・スコット。プロダクション・デザインにはクリス・フォス、ロン・コッブ、H.R.ギーガー。そしてなんとサルバドール・ダリ! ダリは役者として出演もする予定だったそうです。さらに衣装デザインはメビウスという豪華さ。  
 もし実現していたら、どんなシロモノになっていたのか想像もつきません。デザインの一部は今も画集などで見ることができますが、これまたユニークです。  
 でも現実は厳しいものでした。脚本はいつまでたっても完成せず、シビレを切らしたリドリーは他の仕事に移ってしまいます。  
 さらにダリが「時給10万ドル寄越せ」とか意味不明なことを口走るにいたって、プロジェクトは頓挫。気の毒なことに、この時のギーガーはギャラを払ってもらえなかったそうです。 いや、心から同情します。  
 しかし! ここでひとりの男が登場します。同じく「デューン」にスタッフ参加していたダン・オバノンです。ある時、とあるアイデアに魅せられた彼は、上述した人々に声をかけることになるのです。
 もう気づかれた方もいると思います。  
 リドリー・スコット、H.R.ギーガー、クリス.フォス、ロン・コッブ、メビウス、そしてダン・オバノン。彼らは全員、後の大ヒット作「エイリアン」のスタッフ(クリスとロンはコンセプト・スケッチ)なのです。  
 彼らを結びつけたのは「デューン」なのでした。  



 わたしの好きな映画は、今後もチョコチョコ追加します。