さらば伊福部マーチ
2006年2月8日、作曲家の伊福部昭氏がこの世を去りました。
ゴジラシリーズで有名な方です。享年91ということですから、大往生と言ってさしつかえないでしょう。謹んで御冥福をお祈り申し上げます。
さて、その伊福部昭氏ですが、ささやかながら思い出があります。
かなり昔になりますが、ご本人のコンサートに行ったことがあるのです。記憶がおぼろげですが、おそらく77才の喜寿のお祝いだったと思います。
ご自身が育てたお弟子さんたちが数々の伊福部メロディーを編曲し、かわるがわる指揮を勤めるという楽しいコンサートでした。
その中には黛敏郎氏もいたのですが、芥川也寸志氏に続いて二度も弟子の棺をかつぐことになるとは、当時の伊福部氏も思いも寄らなかったことと思います。
さて、そのコンサート。最後になって伊福部氏ご自身が指揮台に上がることになりました。まぁ、ボーナストラックのようなものです。
万雷の拍手の中、ステージ中央に進む氏ですが、まぁ、その足取りが危ない危ない。
よろよろとしていて、本当に衰えた老人という状態なのです。
見ていて心配になった記憶があります。大丈夫なのか?とハラハラしました。
ところが・・・・。
伊福部氏が指揮台に登り、タクトを持った瞬間、すべての光景が一変しました。曲がっていた腰はシャンと伸び、手は高々と持ち上がり、一気に振り降ろされます。
オーケストラが轟音をとどろかせ、聴衆を圧倒します。
力強いフォルテッシモからスタートする曲。スピード感にあふれた、あの独特の旋律が渦を巻くかのような感じでした。
その中心にいるのは、もちろん伊福部氏です。
まるっきり別人です。曲はかなりの長時間にわたったと思いますが、キレのある動きは最後まで衰えず、ぐいぐいとオーケストラを引っ張ります。
そしてフィニッシュ。会場内は割れんばかりの拍手。振り返った伊福部氏は、軽くスポーツを楽しんだ若者みたいな、さわやかな笑顔でした。
いや、これがプロフェッショナルというものかと感動した記憶があります。あのおぼつかない足取りはなんだったのか?
もし、お芝居だとしたら相当な茶目っ気です。
もう一度言います。
心から御冥福をお祈り申し上げます。